☆★☆ 落ちた先は……!? 衛宮さん家の士郎くん In REBORN ☆★☆
聖杯を閉じる為に内側に潜った士郎は、それを閉ざすとこの後の事を思案し始めた。 予想通り、士郎は聖杯に取り込まれない。 これに関しては、そうであって貰わねば後から大変だから、予想通りで安堵しているのだが、ここからの脱出に関して言うならば、実は何も考えていなかった士郎である。 あの時、士郎にはそんな余裕はどこにも無かったし、ある程度の準備が可能な自分達の工房ならまだしも、魔力が充満している以外は何も無いあの場で、有効な手段を講じられる筈がなかった。
多分、アーチャーあたりは状況を正確に把握していただろう。
だからこそ、士郎が大聖杯に潜るのをあれほど止めようとしたのだと思うのだ。 『自己犠牲精神が旺盛過ぎる』と、この状況を北斗が知れば言うかもしれないが、実際はそんなものじゃない事を、ちゃんと士郎は自覚していた。 士郎のこの選択は、他人が言うような自己犠牲精神からきたものじゃなく、己の我が儘を通しただけだ。
これ以上、この馬鹿げた戦いで誰も失いたくないし、自分も死ぬ気はない。
本気でそう思っていたし、この大聖杯に潜って扉を閉じる役割を請け負っても、決して死なない自信はあったのだ。 アーチャーを残したのだって、士郎側から戻る手段が見つからなかった場合を念頭に置いた上での、一種のアンカー役をして貰う為である。 もしあちらに残るのが、アーチャーと切嗣の二人だけなのなら、多分切嗣に一言断ってアーチャーも連れて行ったかもしれない。 だけど、凛やイリヤ、セイバーに桜といった面々も一緒に残るのが判っていたから、俺はアーチャーを連れて行かなかったのだ。
彼女たちに、余計な心の傷を残したくなかったから。
色々な事を考えて、それが一番良いと思ったからこそ、士郎はこの選択をした。 その点に関しては、別に後悔はない。 うん、後悔はないんだけどね。
そう思いながら、士郎は思わず遠い目をする事で、現実から逃避しようと試みる。 しかし、それを許さないだけの状況が目の前に広がっていて。 現実逃避を無意味な状態にしてくれたそれらを、士郎は持ち前の『心眼』を用いて器用に避けながら、思わず毒付いていた。
なんで、こんな事態になってるのさ!? そりゃ、絶対に嘆くだろうアーチャーを、強引に置いて来たけどさ。 だからといって、これはあんまりじゃないか!
そう、士郎が胸の中で毒付く合間にも、次々と襲い来るそれ。 気を抜いた途端、確実に士郎を蜂の巣にするだろうそれらは、周囲から降り注ぐ銃弾だった。 日本では到底あり得ない銃弾との遭遇に、臆することなく士郎が対応出来る理由と言えば、子供のころからの豊富な実戦経験とここに来るまで実際に戦闘状態にあった事があげられるだろう。
なぜ、時空の狭間から弾き出された途端こんな状況になったのか、士郎には全く判らない。
しかし、だ。 どんな理由があろうと、何も判らないまま素直に相手の銃弾を受けてやる理由はない。 そう、この状況に陥ってから僅かな間に判断を下した士郎は、ずっと銃弾を避けつつ現状把握に務めていたのである。
見ている限り、街並みは日本の物じゃない。 暖かな色合いのレンガやタイルを見る限り、南欧辺りじゃないかと当たりをつける。 欧米は、基本的に誰でも銃を持てる銃社会ではあるが、それでもこんな風に銃撃戦を派手にやれる場所となれば、ある程度限られるだろう。 南欧だとすれば、一番可能性が高いのはイタリアだ。 マフィアが強い力を持つイタリアなら、こんな風に銃撃戦があってもおかしくないと言えるかもしれない。
そんな風に、この銃撃戦の状況に当たりを付けてはみたものの、理由もなくいきなり自分が撃たれるのはあり得ないから、自分が落ちた先が抗争の真っ只中だったと思うべきなのだろうか?
頭の端で思考を巡らせながら、襲い来る銃弾の回避行動を続けていた俺の視界に、ふと写った銀色。
鮮やかで、まるで水の中を泳ぐ鮫のように、士郎や銀色に向けて銃を撃ち放つ、いかつい男達を仕留めていく。 手にしている得物が、この時代では珍しいだろう剣だと言う事に気が付いて、回避行動を繰り返しながら無意識にその行動を目で追っていた。 流れる様な剣捌きは、まるで舞の如く華麗さがあるかと思えば、時に剛直で全てを断ち切る鋭さを見せて。 様々な型に対応が出来るだろう、銀色の剣士が見せる動きはどれも無駄がなく素晴らしかった。
この場に居たのが士郎でなければ、まず見惚れて状況を忘れた挙げ句に動きを止めてしまい、銃弾の格好の的になっていたのではないだろうか?
そうして、状況を掴めないまま銃弾を避けながら銀色の剣士の剣技を見続けていた士郎だが、それもそろそろ終わりを告げようとしていた。 銀色の剣士の敵であり、士郎に問答無用で銃弾を向けて放っていた相手を、全て殲滅し終えたらしい。
さて……件の銀色の剣士は、俺も殺そうとするかな? 状況的に考えてたら、『目撃者は消せ』と言う選択になるんだろうけどさ。
漠然とした予想ではあるが、士郎にはこの場で殺されると言う気はしなかった。 士郎自身がこの場に現れた時の状況が、普通じゃ無かったからだ。 少なくとも、どういう手段を用いて突然この場に移動してきたのか、調べない筈がない。 特に、彼らの様な立場ならば、余りに特異なこの状況を何も調べずに放置すると言う選択は無いような気がしたのだ。 銀色の剣士は、士郎以外に人の気配がしない事を確認した上で、ゆっくりと近付いてくる。 暗がりで、今まではっきり見えなかった銀色の剣士の顔を見た瞬間、俺は思わず声を無くしていた。
目の前に立つ剣士の瞳が、髪と同じ色合いだったから。
色合いが似ていても、目の前の剣士が己の一番大切な相手では無い事位、士郎にはちゃんと判っていた。 それでも、つい動きを止めてしまう程に驚いてしまったのだ。
これが戦闘中ならば、これ以上無いほどの隙だと言って良いだろう。
しかし、目の前の剣士はこちらに仕掛けては来なかった。 むしろ、あちらも同じく驚いて居るようで。 初めて逢う筈なのに、ここまで驚かれるだけの理由があるとは思えず、どう動いて良いのか迷ってしまう士郎。
だけど……『これ以上、何も判らないまま動くのは不味い』と、己の中の直感が告げていた事もあり、素直にそれに従う事にした。
こういう時は、直感に従う方が間違いと言うことを、士郎は様々な経験から修得していたからだ。 士郎が敵対行動を取らない姿勢を見せた途端、銀色の剣士はそれまで放っていた殺気を僅かに緩めてこちらの様子を窺うような素振りを見せ。 何かを感じ取ったような顔をしたと思った途端、困惑に満ちた表情を浮かべながら、確認を取るように質問してきたのである。
「……ゔぉぉぉい! なぁ、おめぇ、士郎だろう? その姿は、一体どうしたんだ? いきなり縮んでるから、間違えちまいそうになっただろうがぁ! つーか、急に人前から生死不明で姿を消すなんて真似したのは、その姿になったせいかぁ?」
等と、いきなり親しげな口調で問われ、思わず士郎は答えに窮してしまっていた。 この世界は、士郎がいた世界の未来か、別の可能性を持った平行世界と判断して間違いないかもしれない。 間違いなく、彼の言う『士郎』が自分を示して居るだろう事は、ほぼ間違いないだろう。 そうでなければ、士郎事を見て『縮んだ(若返った)』とは評する事は出来ないからだ。
個人的に親しいのか、何らかの形でこの剣士と関わる事があったのか。 どちらにせよ、この世界の『士郎』と縁があった相手ならば、ある程度は話せるのかもしれない。
そう判断を下した士郎は、目の前の暗殺者ともマフィアとも分からない相手に、掛けてみる事にした。
漠然とした予感ではあったが、この相手は自分の事を裏切らないと言う予感がしたのだ。 なぜ、そう思ったのか、士郎にも判らない。 しかし、それがハズレではないだろうと言う自信が、なぜか自分の中には確定事項として存在していた。
だが、彼が敵と戦う様を見る内に、その魂のあり方が一振りの剣を思わせたからだろうか?
まるで、己の対たる相手にそっくりだと思えたからかもしれない。 化の人も、愚直と言い切っていいほどに真っ直ぐすぎる人だったから。 それに、だ。 どちらにせよ、今の自分にはこの地で生きる為の術も、在るべき場所に戻る術もない以上、士郎には手を差しのべてくれる彼を頼らざるを得ない。
少なくとも、この世界を理解するまでは。
そう、頭の中で思いながら士郎は目の前の剣士に誤解されないようにどう説明するか、言葉を纏め始めたのだった。 目の前の相手にも、この世界のどこかに居るだろこの世界の『士郎』にも大きな問題が起きないように。
****************
俺のことを助けてくれたらしい、裏社会の住人だろう銀髪の細身の剣士に連れられるまま、大人しく後についていく。 今の俺には、他にこの世界について知る術がないからだ。 表の世界についてなら、確かに昼間の表通りに出れば幾らでも調べられるだろう。
だが、裏の世界についてはそうもいかない。
真っ当な人間には、裏社会の深淵をもって覗ける筈かないのだから、それはそれで仕方がないのだが、俺が欲しいのは間違い無く裏社会の情報である。 何せ、俺と切り離して考える事が出来ない『魔術』は、ほぼ間違い無く裏社会側に属するものだろうし、そうなればやはり裏に伝がある人間と知り合いになる必要があって。 だから……俺にとってこの状況は、かなり助かるのだ。
俺と良く似た、この世界の『エミヤシロウ』だと、勘違いされているとしたとしても。
それにしても……目の前の剣士がした、先程の言動が気になるな。 幾つかの推論を重ねると、この世界の『エミヤシロウ』は、俺よりもかなり年上だと考えて良いだろう。 その上で、だ。 俺を見ても同一人物だと判断した事を考えると、何らかの手段で小さくなったとしても、この世界では……少なくとも裏社会では、大して驚きの対象にはならないと言うことだ。 それが、『魔術』がある程度裏社会の中で認識されているからなのか、それとも別の理由があるのかが判らない。 その辺りをはっきりさせておかないと、後で俺の事を誤魔化し難いかもしれない。
to be continues……?
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