☆★☆      行き着いた先は・・・? < 士郎くん in 第五次聖杯戦争 4 > ☆★☆ 

その点から考えても、ある程度大人である第三者が加わるのは、望ましい事だと思う。
確かに、英霊達はみな経験豊かな大人だが、どう転んでも従者の立場であるが故に、最終的に遠坂な士郎から主の立場を示されたら、それ以上言及出来ない事の方が多い。

口うるさいと感じた場合、黙らせる為に令呪を使いかねない奴もいるし。

その点、亜矢女や遊斗は彼等に対して必要だと感じた場合、その場で言及するのは勿論、問答無用で行動する事も辞さないだろう。
そう、例え子供だろうが大人だろうと関係はない。
明確な自分の意志で戦場に出る以上、生死を分ける判断に関わる場合、それを何もせず放置するのは勿論、無為な行動を見逃すなど有り得なかった。

ま、言っても聞かない愚か者の度合いが酷いと、最終的に見捨てられる可能性が全くない訳じゃ無いけどな。

それでも、あくまで最終的に【修正不可能】だと見放された場合だけで、余程の場合は助けてくれる。
勿論、全面的に彼等は面倒を見る訳じゃないけれど、それでも士郎のような未熟者には、かなりの助けになるはずだ。
ま、それを士郎が理解出来ないようなら、どちらにしてもこの戦いを生き残り戦い抜くのは、多分難しいだろう。
むしろ、ここで無事に生き残れたとしても、この先の未来に待ち受けているのは、生き地獄に近い状況しかないだろう事は、容易に想出来てしまうのだ.

そこまで考えた所で、俺はこの思考も同じ事の繰り返しでしかない事に気が付いた。
と言うより、遊斗たちに会って話したことで、頭の中が冷静さを取り戻したと言うべきだろうか?
そもそも、前提が間違っていたんだよな。
確かに、士郎を一から鍛えて根性を叩き直す事は、散々考えて自分の意志で決めた事だ。
だけどな?

俺は、自分の世界で経験した【聖杯戦争】の時の様に、四角四面にモノを考えたりしないで、自分流に楽しみみつけながら行動するって事も、自分で決めてたんだよな。

そう考えると、当然だけどこの現状はどうしても頂けない訳で。
だって、よくよく考えたらおかしいよな?
今だって、この世界のダメダメな士郎を鍛え直すつもりなのは変わらないけど、その為にわざわざ俺がこんな面倒で鬱陶しい思考のループに陥る必要は、実際には全くない訳で。
むしろ、士郎たちを振り回す位の行動をしても、最終的に良い方向に持っていけるのならば別に問題はないんだよ、うん。

だって、真面目にやるのが無意味な位に、既にこの【聖杯戦争】は破綻してるし。

その良い例の一つが、この俺自身がこの場にいる事なんだから、まず間違いないだろう。
俺の事を横に置いたとしても、破綻しているのは変わらないけどさ。
キャスターによる【アサシン召喚】というルール違反を皮切りに、裏技による令呪の貸与や本来あり得ない第八番目のサーヴァントの存在、果ては【聖杯】そのものが汚染されているなんて言う事実もあって。
ここまで来たら、真っ当な【聖杯戦争】なんて出来る筈がないんだよな、うん。
だったら、当初の予定通り思い切り遊ばせて貰う事にしよう。
真面目に悩むだけ、なんか馬鹿を見る気がしてきたし。
ひとまず、今のこの世界の問題がありすぎる士郎に関しては、ああいう生き物なんだと割り切る事にした。

その方が、精神衛生上から考えて、いい気がするし。

そこから、どこまで一般的な人の思考に持っていけるか、調教師の腕次第だと考える事にしよう。
まるで、士郎が野生動物扱いだと言われたとしても、この考え方の方が俺には負担がないんだから、多分変えることはないだろうな。
勿論、だからといって士郎を人として扱わないと、非人道的な事を言っている訳じゃないんだけどね。

ただ、先程までの俺のように、思考がループして下手をしたら胃に穴が空きそうになるまで、士郎の歪みを自分の事のように悩んだりしない事にしただけだし。

確かに、俺と士郎は始まりは同じかもしれない。
だが、最初の分岐で大きく隔たりが出来たお陰で、全く違う人生を歩んできたのだ。
ぶっちゃけ、別人だと言っておかしくないくらい、お互いが歩いてきた道が違うのだから、考え方が違うのは当たり前なんだよな、うん。

同じ魔術に関わる者としてだって、それに掛けた時間や習得具合、経験値だって段違いに違う訳だし。

それを理解しながら、こちらの世界の士郎がまだまだ未熟者で覚悟や考え方を履き違えている事に対して、どうしようもない怒りを覚えて。
未熟者だから、戦闘時の状況などが分かっていなくても仕方がないのに、新平にありがちな突発的な行動をどうしても許せなかったのは、多分同族嫌悪かも知れないと思う。
アーチャーが居なければ、同じ道を辿っていた事は予想に容易くて、それを無意識に感じて苛ついたのだと思うと、納得がいってしまうのだ。

こんなに、この世界の未熟な士郎を見ていてイラつくのは。

【もしかしたら有り得た】というよりも、今の俺の方がどれだけ奇跡が重なった結果なのか分かっているから、余計にそう思うのだろう。
話に聞くよりも恐ろしい、目の前で直接見る士郎の行動や甘すぎる思考が。
この、状況をきちんと把握しているのか判らないような、余りにお粗末過ぎる行動や思考しか出来ないのが、一歩間違えば自分に待ち受けてた未来なのかと思うと、ゾッとするのだから。

ま、あくまで可能性があっただけで、全く違う形に育ったのだから、今更なんだけどね。

それでも……ここまでだとは思わなかったんだ。
やはり、話に聞くよりも直接見た方が判りやすいと言うのは本当だと思う。
性格とか、其れほど自分と差は無いとは思うけど、やはりいざという時の考え方は覚悟は甘すぎると思うんだよな。

少なくても、其れが出来るだけの実力を持たない身の上で、高望みをしすぎると思う。

それと同時に、自分を勘定に入れ無さ過ぎるが故に、周囲に心配しか書けないと言う悪循環を生みだしている事を気が付かない愚か者だ。
本当にこのままだと、身の破滅をいずれ招くだろうと言う事が簡単に想像できるよ、うん。

でも……嫌いだって訳じゃないんだ。
先程言いかけた性格云々だって、朴訥で好感が持てる範囲だと思う。
真面目でお人好しだから、付け入る隙だって山ほどある甘い部分だって、まぁ……許容できない訳じゃないんだ。

ただ、アーチャーが憎悪まで抱いたと言う愚かな結末を辿る可能性がある事を、昨夜からこうもまざまざと見せ付けられて、その余りの愚かさに対して嫌悪感を抱いただけで。

先程も考えた事だけど、士郎と俺は確かに平行世界の同一人物だろう。
この、根底部分だけはどうやって代わる事は無い。
それはちゃんと理解しているんだ。

幾ら、苛立ちを感じても、同一人物だと言う事を様々たところで思い知らされるから。

だけど、最初の分岐点でのたった一つでありながら、覆せないほどの大きな差が出た結果、それこそ全くかけ離れた存在になった。
と言うか、衛宮士郎が今の段階では有り得ない程の実力と、魔術師ならば誰もが望む唯一の魔法を得てしまったのが、今の俺で。
余りに違い過ぎる実力と、本来の物と外見年齢が違う事から、同一人物として結び付かないのだろう。
遠坂辺りは、俺の髪と瞳の色が全く同じなのと、全体的に顔立ちが似ている事から、何らかの関係があるのではないかと考えていそうだけど。

つらつらと考え込んで居ると、急に黙り込んだ俺を心配したのか、遊斗と亜矢女が顔を覗き込んでくる。
あー、うん。
幾ら気が弛んで居たからって、この状況で考え込むべきじゃ無かったな。
もう少し、状況とかを考えるべきだった。

彼等には、それこそ色々な無茶を頼む可能性が高いのだから、余計な負担を増やさないために心配を掛けるつもりは無かったのに。


これが、遠坂達だったのなら、上手く煙に巻くような言葉を重ね、意識を別の部分に誘導して誤魔化せる自信があった。

舌先三寸で誤魔化すのなど、政府の高官やテロリストたちを向こうに回しての、巧みな交渉術を会得している俺からすれば、それこそ容易いことだし。
寧ろそれが出来なければ、生き残れなかったのだから当然なんだけど。
だけど、遊人や亜矢女相手にそんなものが通用する筈が無くて。

分かりきっている事を、わざわざ無駄にやるつもりなんて、俺には欠片も存在していないんだよね。

労力の無駄も勿論だけど、今の状況下では時間が勿体無いし。
確かに、まだ【聖杯戦争】事態は序盤だけど、俺自身にどれだけ時間があるのか判らない以上、無駄な時間を割くつもりなんて、全くないし。
だったら、愚痴も兼ねて心境を暴露する方が賢いだろう。

ストレスを溜め込むのは、成長面にも影響が有りそうだし。

と、そこまで思考を巡らせるのに掛けた時間は、約三秒。
同時に、素早く言いたい内容を頭の中で纏め上げ、遊人達に向けて苦笑を浮かべた。
子供らしく、困惑した表情でも良かったけど、やはり内容的には苦笑の方が合ってるし。
そもそも、外見年齢に合わせた行動をするのも、時としてストレスになるんだよな。

だったら、素顔と本音を曝せる相手が欲しいよな、うん。

幸か不幸か、遊人たちならある程度まではなんでも有りだろうし、話も早い。
おじさんの事もあるから、多少の理不尽にも対応出来るだろうし、頼ってもいいと思うんだよね。
むしろ、亜矢女ならそれをあっさり笑い飛ばして、その上で意識を切り替えるような提案をしてくれるだろうし、遊人ならばきっちりカウンセリングに乗ってくれるだろう。
医者として、ストレスを放置して胃炎を引き起こすなんて事を、許容出来る筈がないんだよな。
だから、安心して相談出来る相手だと思う訳だ、彼らは。

「あー、うん。
ほら、今、【お祭り】に関わっている味方の中に、ほぼど素人が居るんだけどさ。
そいつが状況判断が出来ない……って言うより、外見や年齢、性別とかの上辺の情報を優先して、実力が上の相手より自分が表に立つとかいうお馬鹿さんでさ。
昨夜も、五分よりこちらが優位で進めていた勝負に割り込んできたんだよ。
しかも、こっちは怪我しないように助けた上で、これ以上邪魔されないように拘束したら、状況を理解していないからお礼を言うどころか納得しないし。
挙げ句の果てには、「年上の俺が、年下のアレク達を止めようとするのは当然だ」とか抜かしやがってな。
ひとまず、その場で立場を弁えろって説教かましといたんだけど、実際にどれだけ理解できてるか判らなくてさ。
そいつの余りの考え無しな言動に、未だに怒りが収まらないし。
しかも、これからの厄介事を考えると、そいつがどれだけ邪魔をせずに学ぶべき点を理解して使い物になるか、本気で微妙で。
つい何度も、そいつの未熟な部分に意識が向かっちゃって、思考がループして頭が痛くてイライラしてたんだよ。」

俺が現在抱えていて、これから協力を仰ぐ彼等にも頭痛の種になりそうな存在がある事を、半分以上愚痴混じりに伝えれば、遊人たちも苦笑を浮かべたり肩をすくめて、しょうがないと云ったような溜め息を漏らしたりしてみせる。
一応、平行世界では気心知れている相手でも、こちらでは初対面の相手にここまで愚痴を言うほどの相手だと聞けば、当然の反応かもしれない。
でもな?
これでも一応、他人に聞かれたりしたらまずい部分が沢山ある為、口をにしてない部分だってたくさんあるんだぜ?
事情をこの場で詳しく説明出来たら、もっと愚痴を口にしていただろう。

なにせ、問題となる士郎はこの世界における【俺】なんだからな。

そのあたりの事情は、流石に誰に聞かれるかわからない状態では、到底離せない。
キャスターやマキリ臓硯あたりに聞かれたら、本気で拙いし。
尤も、亜矢女あたりは既に事情を全部把握していそうだけど。
どちらにしても、こちらが抱えている問題の厄介ささえ伝わればいいさ。

実際に、俺の様子からどれだけ大変なのか理解してくれたみたいだし。

彼等だって、戦場で生死を分ける紙一重のタイミングがある事を理解しているからだ。
そんな瞬間に、何も理解していない……いや、頭では理解していても感情で納得出来ず、己の信じるままに我を通そうとして、結果的に被害を広げる愚か者だと、士郎は思われたかもしれない。
士郎にまだ直接会っていないのに、微妙な先入観を与えた可能性も無くはないけど、まぁ仕方がないよな。

だって、俺は何も嘘は付いてないし。

もし、彼らの士郎に対する評価に先入観が混じったとしても、さして変わらない気もするから大丈夫だろ。
と、言うよりも、俺が先程彼等に話した以上の事を、士郎がしでかしてくれる気がするのは、気のせいじゃないと思うんだよな。
うん。
むしろ、何が起きてもいい様に、対応策を幾つも練って置くべきかも。

キャスター辺りの力があれば、あっさり本陣である衛宮邸から魔術を使って浚える位、士郎の抗魔力は低いし。

召喚したセイバーの実力を考えると、キャスターがどうにかして戦力に加えたがると思うんだよな。
きちんと確認していないけど、【第五次聖杯戦争】の関係者と言える面々は、多分変わっていないはずだ。
それなら、戦力的に考えると他よりも弱いキャスターが、補う為に反則スレスレの行動をするのは有り得る訳だし。

まぁ、その辺りの対策に関しては、最初から幾つかの場合を想定して、解決策を用意済みなんだけどな。

などと、遠い目をしながら思考を巡らせていると、柔らかく頭を撫でてくる手があった。
横に目を向ければ、それは慈愛の眼差しを浮かべた亜矢女の手で。
彼女は、今までの俺の話を聞いて、彼女なりに慰めてくれているのだろう。
遊人が黙っているのは、亜矢女に俺を慰めるのを譲ったのと、他に気になる点があったからだというのは、彼を見てすぐに判った。
何やら考え込んでいる様子は、多分、俺が切々と訴えるように話した士郎の状況を聞いて、医者として思い当たる節があったからなのか。
とにかく、問題がある相手に対しての対処方法を考えて居るのだろう。
医者として、精神疾患が認められるならば、対処しないなど考えられないだろうから。

何せ、口は悪くても患者の事を考えた最善の治療を施してくれるのが、遊人だからな。

ただ、医者としての腕は確かだけど、患者を治療する為なら無茶も平気でやらかすのが、ある意味では遊人の怖い所だけど。
患者の態度などを踏まえた上で、それが必要だと判断したら、遊人は迷わず治療を施すのに苦痛が伴うモノを選択する。
大概の場合、その手の治療をする時は、患者が遊人が許容出来ない行動を取った時だ。
例えば、治療が必要なのに放置して受けに来ない不良患者とか、周囲に心配を掛ける行動をしているのに、それを全く反省しないでいるとか、問題行動をしている場合ばかりだったりする。
なので、誰も文句を言えないのである。

遊人の凶悪な治療は、あくまで遊人を怒らせなければ発動しないので、注意していれば大丈夫なんだよな。
大体、あれは遊人の中で心配が怒りに変化した結果で。
裏を返せば、心配していない相手なら、そんな真似をしないのだ。
つまり、身内と認めた相手にそれを行う場合、遊人に取って大切だからこその治療だと言える訳で。
身内が文句を言いながら、それでも遊人の治療を受けるのは、そんな彼の気持ちが解っているからだ。
まぁ、中には遊人の気持ちなど全部承知しながら、それでも治療を受けるよりも無茶を通す者達も居るけどさ。

例えば、アメリカ在住の北斗叔父さんとか、俺の世界の爺さんとか。

あの人達は、別に遊人の治療を受けるのが嫌な訳じゃない。
ただ、自分の治療よりも優先する必要があるものを抱えていたり、自分の中で気になるものを見付けて、そちらに意識が向いた為に、ついうっかり治療を受けるのを、忘れてしまっていたりするだけで。
前者はまだしも、後者には問題があると俺も思うけど、何度言ってもその行動は直らないから、ある意味凄いかもしれない。

何度、あの過激な治療を受けても、態度を改めないんだからさ。

俺が、そんな不穏な事を考えていた事に気が付いたのか、今まで心配そうな顔を向けていた筈の遊人は、どことなく不快そうに眉を寄せ、半分据わった鋭い視線をぶつけてくる。
とは言っても、直接何かを言った訳じゃないので、それ以上の行動を見せることはないので、俺も余計な事を口に出したりはしない。

わざわざ、自分から遊人の怒りを買う必要はないからな。

それに、だ。
あと少しで目的地につく以上、もっと他に優先して話し合う必要がある事が幾つかあるのだから、そちらを優先するべきだろう。
余り、ややこやしい状況を増やしたくないからさ。

「ま、問題児の事はひとまず置くとして、だ。
遊人や亜矢女達に、これからの【聖杯戦争】に問題なく参加して貰うには、やはりある程度まで話し合う必要があると、俺は思う訳なんだよな。
いきなり現れて、【協力させなさい】何て言っても、返って怪しいだけだし。
なんで、幾つか俺が知っている情報を公開する事で、納得してもらうつもりなんだけど……遊人達には、立場を明らかにして貰いたいんだ。
駄目かな?」

言外に、身元を明かした上で上手く話を付けて欲しいと告げれば、二人の顔に苦笑が浮かぶ。
この状況下で、それは意外に難しい要求だと、二人とも理解しているのだ。
しかし、亜矢女の持つ特殊能力を使った協力があれば、予想よりも話は早く進むと思うんだよな。

まぁ、その前に衛宮邸を大掃除する必要はあるだろうけど。

桜が自由に出入りしている以上、あの家の中に何が仕掛けられているか、全く判らないし。
そう考えると、絶対に害虫駆除は必要だろう。
今までは、なにも仕掛けられなかったが、【聖杯戦争】の最中に害を成す行動を取られたら困るからな。
 
何せ、あの家の結界ときたら、邸内に敵が侵入してきても、ただ鳴子による警報しか鳴らないんだからな。
しかも、身内に対しては警報が鳴らない可能性もある事から、身内が敵に操られたとしても、それに対する対策が全くないから、身内も自分も敵から守る術はなくて。

本当に、あれじゃロクな守りにならないよな、うん。

俺の世界のように、攻撃魔術が母屋と離れの中では無効化状態にでも出来れば、それなりに安全面が上がるのに。
いざとなれば、マスター同士の戦いならば、一般的や魔術攻撃能力が低いマスターは、衛宮邸内に逃げ込めば、後は肉弾戦しか戦う術がなくなる訳だし。
基本的に、魔術師は「」を目指しての研究が主目的あり、魔術的な戦闘の手段を持っていても、肉弾戦が可能な面々は意外に少ない。
まぁ、協会に属する一部の例外の一人が、今回の参加者の一人であるバゼットらしいから、実力差は極端から極端に変動する事だけは、まず解って貰えるだろう。

その分、彼女は日常生活に溶け込んでの調査には、かなり向いて居ないんだけど。

攻撃や破壊に特化している事から、多分細々とした作業は苦手だと考えて、多分間違いないだろうし。
俺達と関わる前の、彼女の食事事情を含めた日常生活を考えれば、外れては居ない筈だ。
まぁ、家のことが出来なくても、稼いでいるお金を使えば問題なかったから、仕方ないのかもしれないけど。

あれ……?
なんか、微妙に思考がズレた。
今は、バゼットの事を考えている場合じゃないのに。
……って、ちょっと待て。

そういや、こちらの世界のバゼットはどうなったんだ?

俺の世界じゃ、バゼットが襲撃を受けた当日に怪我した彼女をアーチャーと二人で回収したから、何とか事なきを得たけど……こちらじゃ当然だけど、彼女に関しては何もしてない訳で。
それだって、アーチャーが自分の宝具から事前に情報を得ていたから、発見後に問題なく対応出来たけれど、今回は違う。
遠坂達は当然、彼女に関しては何の事情も知らないどころか、存在すら把握しているか微妙な状況で。

まぁ、【聖杯戦争】はお互いのマスターの正体を探り合うのも戦いの中に含まれているから、それは当然なんだけど。

だから、当然だけど彼女達がバゼットについては全く知らないと思う方が正しいだろう。
唯一事情を知っているランサーは、昨夜までバゼットを襲い令呪を奪い取り、自分を無理矢理従えていた相手の命令で動いていたから、何も出来なかった筈だ。
ランサーも、バゼットが助かっている可能性が低い事を理解しているからこそ、敢えて何も言わなかったのだろう。

それ位、バゼットの状態は良くなかったから。

それを踏まえると、ランサーの判断を責めるつもりはない。
彼の立場を考えれば、寧ろ仕方がないと思えるのだ。
本当は、ランサーだって何とかバゼットを救いたかっただろうが、奪われた令呪の二つの命で縛られたランサーには、何も出来なかったのだから。

だからこそ、ランサーがバゼットの生存の可能性を考えられなかったのも、仕方がないと思うのだ。

でも……前にアーチャーから聞いた話では、襲撃後の彼女を助けた俺達の世界以外でも、彼女が生存している確率はかなり高いらしい。
様々な偶然が重なり合い、仮死状態になったお陰で彼女が生き延びられたからだとしたら、この世界でも同じ可能性がある訳で。
だとしたら、俺にはそれを放置する事は出来ない。

この世界の士郎とは形は違うけれど、一応俺も【誰かを助ける】と言う行為を、自ら進んでやる事にしているのだから。

もちろん、俺の場合はきちんと何が出来るのか、ちゃんと自分の出来る事を把握しているから、何の手段も持たないのにも関わらず、ただ漠然と【助けたい】と思っている訳じゃない。
そんな風に【自分の出来る事】をきちんと把握せずに、感情だけで行動する事がどれだけ周囲に迷惑をかけるか、ちゃんと理解しているからだ。
なにより、だ。
こんな命のやり取りをしている最中で、誰かを救おうとする行為は、そのままその助けようとしている誰かの【命】を背負う行為に直結する可能性が高い。
だからこそ、背負った命を確実に守りきれる能力を持たないのならば、それを補うのにどうすれば良いのか、考える必要があるのだ。

そうしなければ、助ける為に背負った命ごと、自分の命も失う可能性があるのだから。

俺の場合だと、今は一応遠坂たちには伏せている【魔法使い】としての能力を使えば、三千世界にある剣から治療用の物を引き出す事も可能だ。
それを上手く使いこなせば、バゼットを確実に助けられる自信はある。
何より……俺が知る限り、こちら側に関わる中でもトップクラスと言って良い優秀な医者が俺の目の前にいるのだから、彼に協力を仰ぐと言う選択肢も存在する。

だから、彼女を見つけ出せれば無事に蘇生させる自信はあった。

問題の、消息不明のバゼットの捜索だって、俺の富士の樹海でも迷わない程に鍛えられた、精巧なダウンジング能力もあれば、失せモノ捜しにはある意味では最強な亜矢女が居れば、まず時間は掛からない筈。
ならば、このまま衛宮邸に帰宅するより、こちらで彼女を捜し出して保護した方が、多分色々な意味でいい筈だ。
ついでに、遠坂たちに対して言峰がどれだけ信用できないか、改めて示せるし。

上手く事を運べば、間違いなく人助けが出来て、言峰に対しての嫌がらせにもなる。

うん。
俺にとって、何も損になる事はないな。
寧ろ、ランサーの中にあっただろう、【最初のマスター】への心残りも解消出来る気がするし、良いことばかりに思えるよ、うん。
そんな風に思考を巡らせつつ、繰り返し何度も頷いていた俺は、漸く纏まった答えを胸に、視線を改めて遊人達に向けた。
先ずは、移動目的地の変更と理由を伝えなくては、話が始まらないからだ。

「悪いけど、ちょっとだけ目的地を変更して、寄り道をしても良いかな?
一つ、大切な事を忘れていたのを思い出したから、出来れば先に手を打っておきたいんだ。
一種の人命救助だから、早い方が良いだろうし。
駄目かな?」

多分、彼らに対しては差ほど意味はないんだろうけど、一応上目遣いで相手の言葉を窺うようにしながら、軽く首を傾げてそう尋ねてみる。
まぁ、自分の外見を最大限に利用した交渉術の一つだ。
初めての相手なら、ほぼ確実にこれで話を通す自信があるぞ、俺。
今までも、何度かやった事があるし。
キャスター辺りが相手なら、ここから幾つか手を打てばほぼ間違いなく落とせる自信があるんだけど、こいつらには多分通用しないんだろうな。

何せ、もっと質が悪い奴を相手にしても、早々流されないんだし。

頭の端でそんな事を考えながら、俺が真っ直ぐに二人へと視線を向けた。
すると、俺の視線を受けた二人とも肩を竦めながら苦笑を浮かべていて。
どうやら、こちらの思惑は筒抜けらしい。

ま、それも当然だよな。

割とあからさまな行動をした自覚は、一応あるし。
そうなるだろうと、ある程度の予想はついていたけど、やはりあっさり看破されるのは少し悔しい。
まぁ、口に出しては言わないけど。

それよりも、今優先すべき内容は他にあるのだ。
ならば、そちらを放置してまでこだわる事じゃない。
ただでさえ、時間があまりないのだから、出来るだけ有効に使わなくちゃな。

そんな風に考えていると、二人を代表するかのように亜矢女が口を開いた。

「人命が関わっているなら、優先するのは当たり前だわ。
そちらが先で、構わないに決まってるでしょ。
大体、本来ならば関われない筈の【お祭り】だもの。
それが理由で、多少参加するのが遅れても、私達が文句を言う訳ないわ。
だから、気にしないであなたの好きに動きなさい。
必要なフォローは、私達がしてあげるから。」


笑顔で言われ、宥めるように肩を軽く叩かれて、思わず俺は安堵の息を吐いた。
彼女達の了承が得られたのだから、問題なく行動する事が出来るからな。
一応、ランサーが心配するといけないし、レイラインを使って帰宅が遅れる旨を伝えておくべきだろう。

俺の実力と、今が本来戦いが行われる時間帯から外れた早朝だという点から、多分ランサーはさほど心配するとは思えないけど。

問題は、遠坂や士郎達だろう。
俺がどういう存在なのか、きちんと話してあるアーチャーはまだしも、それ以外の面々は確実に朝っぱらから出掛けて戻らない事を知れば、苛立ちを募らせる筈だ。

特に、何事にも生真面目なセイバー辺りは、昨夜の俺の士郎への態度なども含めて、確実に疑念を抱きそうだし。

いや、うん。
彼女の立場に立てば、仕方がないかも知れないけどさ。
それでも、アーチャーと切嗣の話で聞いたのと、実際に俺の世界で接していた感想を交えると、出てくる答えはただ一つ。

セイバーは、どう考えても堅物だからなぁ。

もちろん、それが悪いとは言わないけど、時と場合をもう少しきちんと考えて、柔軟な対応をして欲しいと思う。
それが上手く出来ないから、融通が利かない堅物扱いされる訳だし。

いや……多分、ランサーに連絡したとしても、それ程セイバーの態度は変わらな
いだろう。

寧ろ、ランサーに対して【二人で何を企んでいる】と疑われ兼ねない気がするのは、俺の気のせいだろうか?

つらつらとそこまで考えて、思わず俺はため息を漏らした。
どう考えても、憂鬱な状況しか頭に浮かばないからだ。
完全に味方になった訳じゃない以上、士郎自身だけが問題じゃなく、その周囲も幾許かの問題がある。

一応、昨夜の流れもあるから、イリヤも遠坂も一時停戦してくれているけどな。

確かに、俺自身が警戒されても仕方がない行動を幾つも取った自覚がない訳じゃないが、それでもあからさまな敵意を向けられるのは、勘弁して欲しいのが本音である。
少なくても、可能な限り味方だとアピールしているセイバー達の警戒ぶりは、ちょっと頭が痛い所だ。
まぁ、マスターを戦闘領域内でいきなり拘束されたり、英霊になった彼女たちですら警戒する程の殺気を出したりされたのだ。
ある意味、彼女の中に余計な警戒心を植え付けたのは俺自身だけどさ。

それでもやっぱり、ねぇ……

俺の口から、幾つも溜め息が漏れるのを聞いて、大体こちらの心境を察した亜矢女が、宥めるように軽く頭を撫でてくれた。
隣を歩く遊人も、行動でこそ示さないが、こちらを気遣うような素振りが見える。
二人とも、多分俺の精神状態を理解してくれているからこそ、あからさまに口に出さないが心配してくれている事くらい、俺もちゃんと理解していた。

つい、何事もなかったかのように過ごしているから気付かないみたいだけど、な。
俺だって、セイバーと一緒に士郎に召喚された形でこの世界にやってきてから、色々な意味で精神的な負荷が掛かってるんだぞ?
あからさまなパニックを起こさないのは、日頃のアーチャーと切嗣の教育の成果であってだな。
いきなり平行世界に飛ばされた場合、普通ならここまで冷静でいられる訳ないじゃん。

ただ、小さな子供みたいに喚いても、向こうの世界のアーチャー達が迎えに来てくれるまで、こちらからは誰にもどうにもならない事も判ってるから、今まで何も言わなかっただけだし。


 

 

to be continues……?

 

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