☆★☆      行き着いた先は・・・? < 士郎くん in 第五次聖杯戦争 3 > ☆★☆ 


「何だよ……お前、北斗の関係者なのか。
ったく、それなら確かに俺の事やうちの一族を知っている筈だぜ。
んで、そっちでも北斗は相変わらずなのか?」

俺の言葉を聞くなり、否定する様子を見せる事無くあっさりそれを認めて、更に北斗の事を尋ねてきる遊斗。
そんな彼に、思わず俺が話を確認してしまうのは、当然の反応だと思う。
しかし、遊斗は口の端をニヤリと上げながら、事も無げに言い切った。

「なんだ、俺がそっちの言葉を信じたのが、そんなに不思議か?
そりゃ、簡単な事さ。
お前さん、自分がこの世界と微妙に違う気配を出しているの、気が付いて居なかったのか?
まぁ……俺達一族じゃなきゃ判らないレベルだから、問題ないんだろうけどな。
だから、平行世界から何らかの事故でこっちに来たんだろうと、最初に見た時からそう考えてたんだよ。
大体、だ。
肉体と魂の積み重ねた経験年齢が合ってねぇから、そのあたりでも並行世界上に同一人物がいる関係で、後から来たそっちが変更させられたんだろうと気が付いてたし。
だから、話を端的に聞いて納得したのさ。」

はっきり言い切る遊斗に、俺も素直に納得した。
確かに、それならあっさり信じた理由にも納得出来る。
一目見ただけで、彼にはこちらの状況が理解できたという、きちんとした理由があって【信じる】という断を下したのだから、文句はない。

と言うか、信じて貰えない方が困るし。

なにせ、この場から彼等の協力を得られるかで、今後の対策が変わる訳だし。
そう……彼らが協力してくれるかどうかで大きく変化が出るのは解り切ってるんだよな。
この段階で協力してもらえなかったとしても、最終的には協力関係まで持って行くつもりではいたけどね。
まぁ、それでも出来るなら早い段階で協力して貰える方が良い。

医療関係では、彼の協力があった方が確実な面がいくつもあるんだから。

確かに、今は彼等の協力が無くてもまだ何とかなる。
だが、俺の方がいつまでここに居られるのか、今の段階ではっきりして居ない以上、彼等への協力要請を後回しにしていると、協力して貰えるようになった次の日にはこの世界に居ない可能性すらある訳で。
もし、そんな本当に事にでもなれば、ロクな説明も出来ないまま遊斗達に丸投げになると言う状況も、全く無い訳じゃないのだ。

流石に、そこまで迷惑を掛けるのは気が引けるんだよな。

最初から、可能な限り彼等を巻き込むつもりは満々だったけど、それでも何も説明しないまま丸投げにするつもりは、俺でもそれは流石に無い。
だって、彼等にだって出来ることには限りはあるだろうし、何より後始末を任せるのなら、最初の段階で全部任せて【聖杯戦争】を完全崩壊させてるさ。
その方が、はっきり言って面倒や被害は少なくて済むし。
一部、例外に当たる奴は居るけれど、それだって何とか出来ない訳じゃないらしいんだよな。
ただ、その場合は彼等も【切り札】を切る事になるから、余りやりたくないだけだし。

「ま、そんな訳だから。
ここに来たからには、巻き込まれる可能性も解っているだろうし、遠慮せずに協力要請しても大丈夫なんだよね?」

にっこり笑顔のままで確認すれば、溜め息を一つ漏らしながら携帯を取り出す。
どうやら、許可を取ってくれるつもりらしいと勝手に判断しつつ、俺は遊斗の返答を待つ事にした。
どうせ、携帯で連絡した先との話が終わらなきゃ、返事をくれないだろうし。
そんな俺の言葉に、眉を寄せながら遊斗はこちらを見る。

「大人しく、俺と一緒にうちの総本山に来るという選択肢は、お前の中にはねーのかよ。」

呆れたように言う言葉を聞きながら、俺は簡単に一言。

「や……だって、俺、この街で今起きてる【お祭り騒ぎ】に一枚どころか何枚も噛んだ形になってるし?
何より、今はランサーが居るしな。」

ニヤリと笑いながら言えば、頭が痛そうな様子を見せる遊斗。
あー、うん。
気持ちは痛い程判るよ、気持ちはさ。
いくら、柔軟性に飛んだ行動力と判断力があっても、彼等の一族の大半は常識人ばかりだし。
要らぬ騒動に、片足突っ込んでいると言われたら、俺だって同じ反応を返していると思わなくもない。
だけどさ、仕方がないじゃないか。

「だって……次元の狭間から出た先が、英霊に襲われていた最中の召喚陣の上で、召喚に応じた英霊と一緒だったんだぞ?
そこまで状況が揃っていて、巻き込まれない方がおかしいだろ?」

あれは、はっきり言って不可抗力だ。
溜め息混じりに言えば、流石に余りの状況を聞かされたと思ったらしい。
更に頭を痛そうにしている姿に、思わず申し訳ない気持ちになりはするが、自分の言った言葉について、訂正つもりはない。

や、だって嘘は言ってないし?

そんな俺に、小さく首を振りながら溜め息を付くと、遊斗は諦めたような顔になる。
多分、遊斗は俺の事を【こういう所は叔父と一緒だな】なんて思っているのかもしれない。

「まぁ…それじゃ、仕方がないな……なんて言うと思うのか?
確かに、ある程度まで巻き込まれるのは仕方がない。
が、先程からの言動から察するに、自分から率先して巻き込まれた挙げ句、参加者になる奴を野放しにしておけるか。
とにかく、一族には【最優先保護対象】を発見したと、連絡しておくからな?
後、何人か増援要請も出しておく。
流石に、この街での単独行動は厳しいからな。」

どうやら、一族でも同じ【神帝隊】のメンバーに協力要請してくれるらしい。
まぁ、基本的に後方支援が主体の遊人は、戦場に近い場所に行く時は単独行動はしないらしいし、当然の行動かもしれない。
だったら、俺からも協力要請を出してもらう相手を指定したいかも……

特に、遠坂対策用に牛若とか牛若とか牛若とか。

何といっても、現時点はもちろんだが一生の付き合いになるだろう、魔術に使う為の宝石を入手する為に必要な金策問題。
だが、牛若と縁が出来ればかなり楽にする事が出来ると言うのは、彼女にとって大きな魅力の筈だ。
しかも、彼から宝石類が入手できる様になれば、かなり上質の物も安価で入手可能となるなら、更に喜ばれる筈である。
それが判っているからこそ、協力者候補にいの一番で彼を指名したのだ。

出来るだけ、この世界の【衛宮士郎】が未来で遠坂の金策に巻き込まれない為に。

正直、俺からすればかなり正当な理由を挙げたつもりなのだが、遊人には理由がいまいち伝わらなかったらしい。
俺が付けた注文に、遊斗は呆れたような顔になる。
まぁ、当然の反応だろうな。
俺だって解っていて、その上で言ってるんだ。
寧ろ、それ位で引くつもりはない。

だって、彼等の力がどうしても必要なんだから。

「なんで、後方支援タイプの牛若を選択するかね。
俺もあいつも、基本的に前衛向きじゃないから、どうしても前衛タイプのメンバーがもう一人、必要になるじゃないか。」

溜め息を吐きながら、それでも一応連絡してくれるらしい。
なんだかんだ言って、彼は口は悪くても人が良いから、出来る範囲で協力してくれるんだよな。
ぶっちゃけ、神帝隊のメンバー全員に来て貰っても、俺としては全然困らないけど、派遣する向こうは違うだろう。
受け入れる遠坂だって、勝手に部外者を入れる話を付けた事に対して、何らかの文句を言いそうだし。

やっぱり、神帝隊のみんなは凄い人ばかりだし、今の段階では少数先鋭で大丈夫かな。

頭の中で素早く計算し、遠坂を納得させられるだろう許容範囲の人数を割り出す。
せっかく、話を付けてこちらに来て貰っても、受け入れが出来なかったら申し訳ないからだ。
それに、先に受け入れ可能人数を教えておけはば、人選も変わるだろう。

今はまだ良い。
序盤戦の段階だから、それ程大きな戦闘行為はまだバーサーカー相手の昨夜のモノだけで済んでいるからな。
だが、これから起きるだろう事を考えると、出来るだけ即戦力になる方が良だろう。
しかし、出来るだけ問題を引き起こさずにこちらに滞在するならば、やはり同性の方が面倒が少ないよな。
まだ直接会った訳じゃないから正確には言い切れないけど……特に藤ねぇ辺りは色々な立場的にも、女性が士郎の家にこれ以上同居するのは、許容出来ないと思うし。
そうなると、神帝隊最強を誇る倭は選択肢から除外される事になる。

だって、こちらの世界の彼女も俺達の世界とほぼと同じ年齢なら、確か十五才か十六才位の計算だから、最悪の場合、現役【女子中学生】になる筈だからな。

そんな相手が、一時的にでも衛宮の家に滞在する何てこと、確実に藤ねぇだけじゃなく、士郎自身も反対する筈だ。
魔術師に、年齢や道徳など余り意味を持たない事を知りながら、それでも倭をみたら確実に子供扱いの上に、女性扱いして戦いに参加することすら反対しかねない。
アーチャーの【記憶】通りなら、セイバーだって似た扱いをしていたし、ほぼ間違いないだろう。

それが、どれだけ【戦士】や【剣士】としてある者の誇りに、傷を付けるかも理解せずに。

そう言う意味でも、やはり倭は除外するしかない。
あれで、普段はほやほやしてるけど、戦場では超一流の戦士だから、士郎の態度にストレスを溜めて暴走なんて事態になったら、それこそ本気で洒落にならないし。

一応、倭はある程度自分の力が制御できているので、その辺りは大丈夫だとは思う。
だけど、こんな物騒は街では些細な事でも暴走に繋がる可能性もあり、避けれるならば避けた方が良いだろう。
なんで、その旨を遊斗に伝えれば、途端に渋い顔になる。
まぁ、普段から遊斗の相方は倭が勤めているから、ダメ出しされた理由を理解出来ても、納得し難いのだろうな。

俺だって、アーチャーに対してダメ出しされたら、多分遊斗と同じ反応をするだろうから、気持ちは良く判るし。

それでも、世話になるだろう家の状況を話せば、渋々納得してくれた。
話を聞けば、遊斗たちもこの街の【聖杯戦争】にどこか違和感があると判断したらしく、十年前の大災害規模の非常事態が起きないように、近隣の街から監視していたらしい。
彼等からしても、十年前の大災害は想定外の事故だったらしく、二の轍を踏まないように、と言う考えからの行動らしいが。

「今の段階で、直ぐにこっちに来られそうなのは、アリババかな。
あいつも、この街の常駐監視役として、俺居たのとは反対方向にある街の大学に、席を置いてた筈だし。
後は……亜矢女かな。
亜矢女は、普段はフリーの傭兵として動いてるんだけど、【聖杯戦争】の兆しが出た時点で仕事を入れてなかった筈だ。
既婚者だし、夫婦共に切嗣の仕事仲間だったって言えば、抵抗は低いんじゃないか?
どちらを選択するかは、そっち次第だけどな。」

遊斗の口から出たすぐに来られそうなメンバーの名前に、俺は少し悩む。
アリババと亜矢女の二人だと、なかなかに選択が難しいチョイスだな。
二人とも、実力は申し分ないけど、戦闘経験と細かい裏技などに関しては、ほぼ亜矢女の方が上。
これは、彼女の持っている能力を考えたら、当然の結果なんだけどさ。
それ以外でも、アリババより亜矢女の方が能力は上だけれど、問題は彼女が女性だって事かな。
これ以上、あの家に滞在する女性比率を上げるのは、余り良くない気がするし。

でも、実力だけを考えるなら、亜矢女が良いんだよなぁ。

桜の一件だって、彼女に手伝って貰えたら、多分話が早く済む気がするし。
それ以外でも、ある程度の自炊能力は欲しいんだよな。
現在、衛宮の家に料理が出来る奴は、遠坂やアーチャーまで入れて5人居るけど、二人が話し合いの結果で敵対する事になって、桜が家の都合で来なくなれば、一気に二人になるだろ?

その上、俺が士郎を色々な意味で鍛えるのに掛かり切りになれば、ほら、料理が出来る奴が居なくなる計算になる訳で。

勿論、遠坂達が敵対するかどうかなんて判らないし、そもそも士郎の鍛錬に付き合うにしても、時間帯を考えればいいと言う意見もあるだろう。
しかし、だ。
今の状況下では、士郎が余りに使えなさ過ぎる上に、その場の状況を把握できずに自分の意志を押し通して、最悪な状況を引き起こし兼ねないんだよな。

良い例が、昨夜の俺とイリヤの賭けを邪魔した、あの行動である。

あの時は、俺が動きを察知して対処したから何とかなったけど、敵が物量で攻めてきたらそれが可能とは言えない。
うっかり英雄王は勿論だけど、今の段階じゃキャスターだって敵対して竜牙兵を出してくる可能性だってある。
それに、臓硯の蟲の大群に襲われたら、対応なんて難しいし。

他にも理由はあるけど、とにかく士郎を早急に戦場での最低限の判断が出来るように、仕込みなおす必要がある。
それが出来ないと、迷惑を被るのはこちらだからだ。

そうやって考えると、この可能な限り選択肢を増やしたい状況下では、単純な理由で選択していいものか、やはり迷う。
彼女の実力に関しては、間違いなく折り紙つきだからな。
ただ、女性というだけで選択肢から除外するのは、正直勿体ないと思う。

まぁ……亜矢女の問題点は、まぁ他にも無い訳じゃないけど。

なにせ、彼女は名を知られた傭兵であるだけじゃなく、二つ名持ちの魔女なんだよな。
実力的に考えても、彼女の名前はかなり有名で。
そんな彼女が登場したら、間違いなく遠坂やイリヤが警戒するだろう。

だけど……それを踏まえても、やはり亜矢女を選択した方が利点は多いんだよな。

アリババだって、能力的には悪い訳じゃない。
むしろ、アリババの属性と能力を考えれば、夜に行われる【聖杯戦争】では有利だと思う。
ただ、その能力も状況次第ではサポート系になる場合もあり、それだと必要な前衛がまた居なくなる事になる訳で。

「うーん、やっぱり亜矢女が良いかなぁ。
出来れば、女性比率を余り上げたくないんだけど、総合的に見たらという点で考えると、亜矢女の方が良いんだ。
特に、亜矢女は傭兵部隊では新兵の指導員もしていた筈だから、士郎を鍛えるのに協力して貰えそうだし。
そんな訳で、亜矢女への連絡を頼むよ。」

俺の選択した結果を聞いて、遊人は早速連絡を取ろうとするが、その前にこの場からそろそろ移動しようと提案することにした。
正直、いい加減移動しないと色々まずい事になりそうだからな。
時間帯的には、【聖杯戦争】にかかわる戦闘行動は禁止だと思うけど、それを無視して動きそうな反則行為を平気でしそうなやつが何人もいるから、用心は必要だと思う。

「それじゃ、俺が厄介になっている家に行こうか。
流石に、時間的にもそろそろ戻らないとまずいし。
あ、そういや遊人はここまで来るのに使った移動手段はあるのか?」

俺の質問に、遊人は首を振る。
まぁ、遊人たちは緊急用の移動手段があるから、それを使ったんだろうな。
それなら、家までは徒歩での帰宅になるけど、まぁそれもいいか。

どうせ、荷物もそれほどある訳じゃないし。

救援を頼む相手には、急いで連絡をした方がいいと判断したのか、遊人は歩きながら携帯で連絡を取っている。
それにしても……一体どれくらいで合流が出来るんだろうな。
多分、行動が早い彼らの事だ。
合流するまで、それほど時間はかからないだろう。

さて……これから、合流する亜矢女と士郎の鍛える方向性をどうするか、考えた方がいいだろうな。

もちろん、士郎の事を軍隊方式に完全に染めるつもりはないし、何より染まるタイプとは思えないけれど、それでも歪んだ部分を叩き直す一つの手段としては悪くない筈だ。
何より、亜矢女は何人もの子供を育てている母でもあるから、士郎のようなタイプが相手ならば、 欠けてしまった部分を埋める為にま無償の愛情を注いでくれそうだし。
それ以上に、亜矢女は戦う女性の中でも子供を守る母の強さを、士郎に見せ付けてくれそうな気がする。
うん。
そう考えると、亜矢女を選択したのは間違いじゃないよな。
俺は、士郎には色々と思い知るべきだと思う。

それこそ、自分の中の価値観を、一度根刮ぎ破壊される位に。

多分、それくらいの衝撃を受けないと、士郎は変われない気がする。
俺自身、そうなりかけたからこそ判るけれど、士郎の中にある歪みは……普通ではありえない程根深いものだから。

そんな事をつらつら考えていると、亜矢女と牛若に連絡を終えた遊斗が、こちらを見る。
どうやら、伝えるべき事があるらしい。
俺が視線で言葉を即せば、遊斗は軽く首を竦めながら口を開く。

「そっちがご希望の牛若だが、丁度海外で仕事中らしくてな。
もう直ぐ終わるが、終わり次第こっちへ速攻で戻って来ても、冬木への到着今日の夕方になるらしい。
こればかりは、どうしようもないから諦めろな。
んで、亜矢女なんだが……急ぎなら、この場でライターの火でも着けてくれだとさ。」

どうする?と尋ねてくる遊斗に、彼女の言葉の意味を知る俺は、迷わずポケットから火起こし用に持ち歩いているライターを取り出し、その火を点す。
次の瞬間、ライターの炎が一気に燃え上がったかと思うと、そのまま人型へと姿を変えて。
それこそ、瞬く間に変化したそれは、最終的に一人の女性になった。

「……おはよう、遊斗。
ライターを使ったなら、かなり緊急事態なのかしら?
まぁ、この厄介な状況の街に第一級保護対象が居るんじゃ、仕方がないわね。
と……あら、まぁ……可愛い!!」

遊人に向けてあいさつした女性は、遊人に対して軽く状況把握のための会話をしていたのに、俺の姿を見た瞬間そう言って問答無用で抱きついてきた。
幾ら外見年齢が幼くなっているからとはいえ、【可愛い】と言われて抱きつかれるのは、正直精神的にキツイんだけど。
しかも、そのまま俺の事を軽く抱き上げ、にっこりと笑うと一言。

「遊人、この子よね、あなたが言っていた第一級保護対象なのは。
緊急の呼び出しも、この子を見たら納得したわよ。
それじゃ、私はこのままこの子を連れて帰るから後お願いね。」

ギュウギュウと、腕の中に抱え込んだ俺の事を抱き締めながらそうのたまうと、そのままその場から先程のように炎を使って転移するべく、ライターを取り出す亜矢女。
【業炎の魔女】の二つ名を持つ彼女にとって、炎を媒介に使うのは最速の移動方法なのだ。
こういう所に関しては、即断即決なのは変わらないらしい。

余りの行動に、一瞬思考が停止仕掛けたが、すぐさま我に返り制止の声を上げる。

「「ちょっとまて、待て、まて(たんか)!
幾ら何でも、ここに来て直ぐにその行動は、流石におかしいから!」」

思わず遊斗とハモってしまうが、同じ事を考えたのだとすれば、おかしい反応じゃないので、互いに突っ込んだりはしない。
と言うか、亜矢女が子供とか小動物とか可愛いもの好きなの、すっかり忘れてたよ。
ショタとかじゃなく、迷子とか孤児とかを含めて困っている子供を見ると、無性に保護欲が湧くらしいんだよな。

実際、それが理由で戦災孤児たちを何人も引き取って育ててるし。

今の俺の外見じゃ、確かに亜矢女の保護欲の対象に見られても、おかしくないか。
時空間的な意味では、確かに俺は遭難しているから迷子だと言えるし。
や、でも、俺、実年齢はお子様とは違うから、やっぱり対象外だよな。

亜矢女の行動に、思わず現実逃避してしまいそうな俺の横で、遊斗が更に言葉を連ねている。
やはり、遊斗も亜矢女の行動は予定外だったのだろう。
そんな遊斗に、亜矢女は軽く首を竦めた。

「あら、この子を早急に保護するために、私を呼び出したんじゃないの?
この子みたいな色々と放置しておいて問題がある子を、この街には危な過ぎて置いておけないでしょう?」

この僅かの間に、亜矢女は俺の魔力などの異常さを、ある程度まで見抜いたらしい。
流石だと思いながら、黙って成り行きを見守れば、遊斗はあからさまに大きな溜め息を吐き出し。
亜矢女の質問に対する答えを、ゆっくりと口にした。

「残念だが、もうその段階はとっくに過ぎてるらしい。
こいつも、この街の【お祭り騒ぎ】の参加者になってるらしくてな。
保護したくても、街の外に出す訳にはいかない状態なんだよ。」

溜め息混じりに言う遊斗に、俺は思わず心の中で苦笑した。
確かに、遊斗のいう言葉や気持ちも判らない訳じゃない。
俺が遊斗の立場なら、同じような気持ちになるからかな。
でも、こればかりは落ちた状況が悪かったが故の不可抗力なんだから、是非とも大目に見て欲しいよ、うん。

「あら、そうなの?
それなら……私を呼んだのは、今まで出来なかった介入チャンスを得たがらかしか?」

こちらの意図を伺うような、鋭い亜矢女の視線に対して、遊斗は少しだけ困ったような顔をする。
確かに、遊人がここのすぐに来られる候補として彼女を示したのは間違いない。
だけど、あくまでこの場に亜矢女を呼ぶように指定したのは俺だし、遊斗には答え難いよな、うん。

やっぱり、これに関してはきちんと俺が呼び出した事を、彼女に言うべきだよな。

「口を挟むようで悪いけど、亜矢女を呼んでくれと頼んだのは俺なんだ。
と言うか、亜矢女だって既に状況を把握してるんだろ?
亜矢女の持つ力なら、それ位雑作もない事だろうし。
違うか?」

上目遣いで様子を窺うように問えば、亜矢女は小さく苦笑を浮かべる。
どうやら、彼女の能力にも変化はないらしい。
腕の中に抱え込んでいた俺を、ゆっくりと下に降ろすと、そのまま膝を付いて視線を合わせてくる。
正直、視線を合わせる為に膝を地面に付かれるのは業腹だが、彼女のスタイルの良さを考えればこの方が良いかな。
下手に前屈みの姿勢になられても、目のやり場に困るし。

俺が幾ら外見年齢が子供でも、中身は健全な青少年だからな。

真っ直ぐに、俺と視線を合わせていた亜矢女は、鋭く観察するようなそれをフッと弱めると、柔らかく俺の頭を撫でてきた。
どうやら、彼女の能力を使った俺の調査が終わったらしい。

「……成る程、ね。
確かに、この子は第一級保護対象だわ。」

納得したように頷くと、亜矢女は俺の顔を覗き込んでくる。

「……それで、【聖杯戦争】のマスターじゃない私達は、一体どこまで関われる予定なのかしら?
出来れば、どんな心積もりなのか、聞かせど欲しいわ。」

笑顔で問い掛けてくる亜矢女に、俺はにっこりと笑みを浮かべて見せる。
彼女の言葉を聞く限り、こちらの思惑に協力してくれる気がある事が窺えたからだ。

流石に、誰に聞かれるか判らない場所で全部を話す気にはなれなかったので、詳しい事は説明を省くべきだろう。
なので、端的に一言で済ませる事にした。
亜矢女たちなら、それでこちらの意を汲んでくれるだろうし。

「んー、ひとまず状況にもよるけど……基本的には、俺が必要だと判断した範疇で可能な限り、かな?」

にっこりと、思い切りイイ笑顔で言い切れば、遊斗も亜矢女も同じような笑みを返してくる。
こう言っておけば、お互いの中でお互いの都合に合わせた許容範囲を勝手に決めて、上手く立ち回ろうとしてくれる筈だ。
それこそ必要になれば、遠坂やイリヤじゃ太刀打ちできない位の、正論を交えた交渉術を彼等が披露してくれるのは、まず確実だろう。

その気になれば、言峰だって言い負かすのは難しくないくらい、彼等の弁は立つのだから。

と、言う訳で、だ。
俺としては、この後に待ちかまえているだろう、遠坂を筆頭にした追及に対する、有効な交渉人を手に入れたと思う。
まぁ、彼等に協力を求めた目的はそれじゃ無いけれど、その件に関しても協力してもらうつもりだ。
幾ら弁が立っても、こういう話し合いの場では、外見によって侮られる事は往々にして有り得るからな。
 
昨日の一件でのやり取りから、多分その手の扱いはないと思う。
寧ろ、油断がならない相手だという認識の方が、彼女たちの中には根強いんじゃないかな?
だけど、それは一人の例外を除いての評価になる気がするのは、多分間違いじゃないと思う。

そう……この世界の衛宮士郎という、例外以外からの評価だ。

切嗣やアーチャーに散々鍛えられ、外見や年齢などに捕らわれずに相手を見ることが出来る俺とは違い、この世界の衛宮士郎は目先の物事でしか判断が出来ない。
勿論、女性や子供に優しいのは良い事だろうが、それが全ての事柄に当てはまるかと言われたら、違うと言えるだろう。
敵の中には、自分の外見や性別、年齢を利用してくる奴らなんて幾らでもいる事を考えれば、士郎のそれはかなり甘い考えだと言ってもいいと、俺は思うのだ。

そのあたりを理解できなければ、いや……理解出来ても、多分対応はそれ程変わらずに、最終的にそれで墓穴を掘るんだろうな、この世界の……いや、俺のような特殊な立ち位置を持ち得ない【衛宮士郎】は。

判っていても、それは歯痒い。
これが、【衛宮士郎 】という存在の在り方だと、アーチャーの記憶から理解はしているものの、どうしても納得出来ないのだ。
勿論、俺が幾らそれをぐるぐると頭の中で考えていても意味を成さないだろうし、堂々巡りにしかならない事だって判っている。
それでも、気が付けばそこに思考が向かってしまうほどに、気に入らないのだ。

 

to be continues……?

 

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