☆★☆ 行き着いた先は・・・?   < 士郎くん in 第五次聖杯戦争 2 > ☆★☆ 

** 前回までのあらすじ **

【大聖杯】の中に取り込まれ、並行世界の可能性の一つである、【もう一つの第五次聖杯戦争】の最中へ、若返った上にセイバー召喚に巻き込まれるように落ちた士郎は、【アレク】と名乗り、そのまま改めてその世界の【聖杯戦争】に参加することに。
途中、ランサーを自身のサーヴァントに引き込み、その世界の【衛宮士郎】と【遠坂凛】とともに言峰教会へと向かう途中、遭遇したバーサーカーとイリヤ。
アレク(士郎)は、彼女たちに【賭】を申し出た上で、戦う事になったのだが……途中、状況を把握せずに乱入した【衛宮士郎】によって賭そのものが有耶無耶になる事態が発生し、結果として一時休戦して衛宮邸に向かう事になったのだった。

********************


障子越に差し込み、周囲を満たす明るい日の気配に、緩やかに目を醒ました俺は、自分が居る場所が一瞬判らなかった。
その理由は、ここが衛宮邸の一室だったからだ。
しかも、普段から偶に使う部屋だったのが、状況把握を阻害した要因の一つだろう。

まあ、それは一瞬の事だったし、何より寝起きの事だったので、寝ぼけて自分がどこにいるのか把握出来なくても、ごまかしが効くから問題ないのだけど。

とにかく、士郎達が俺に対して色々と詮索したい事があるのを判っていたし、一応対策を考えておく必要があるだろう。
流石に、何も考えないまま放置しておくと、それこそ後が面倒だからな。

特に、遠坂はしつこい位だし。

それに、だ。
昨日の夜の賭けで、この家に来ているイリヤとも、きちんと話さなくてはいけないだろうし。
これに関しては、本来ならば受け持つべき士郎を頼るのは難しいと判るだけに、悩むところが幾つもある。
士郎を頼れない理由は、それこそ簡単なものだ。
全く事情を把握していない士郎では、逆に話を混乱させかねないと判断したからである。

ホント、この世界の士郎は全くイリヤと切嗣の事情を知らなかったから、色々っ説明が大変で困るよな、うん。

まぁ、こればかりは仕方がないのかもしれない。
俺の場合、様々な状況からこちら側に関わらざるを得なかったけど、士郎は違う。
いや……切嗣がそう思い込んでいただけで、実際は全く違うのだけれど、それでも魔術師の世界に関する知識が足りなさすぎた。
知らせない事で、士郎を関わらせないようにしていたのだろうが、寧ろ逆効果だと言って良いだろう。
せめて、切嗣自身の家族構成とかだけでも話しておいてくれたら、色々と話を進めやすかった気もするし、イリヤへの対応も変わっていただろうに。
そう考えると、やはり全体的に詰めが甘い。
どうやら【聖杯戦争】を止める為に、【大聖杯】に細工を施していたみたいだけど、効果が現れるまでの時間が長すぎたみたいで、意味が全くなかったし。

その手の細工をするつもりなら、ちゃんと対象となるものの状態を把握してないのが、まず失敗だよな。

起動した【小聖杯】に異常があったのなら、大元の【大聖杯】 だって異常があると考えるべきだし、ちゃんと調べていたら、蓄えられている魔力の消費量がかなりのものだって、多分判っていたはずなんだ。
もちろん、【大聖杯】の正確な場所が判らなかった可能性も、無くはないけれど……それでも、対応が足りなさすぎるんだ。


その結果が、この【第五次聖杯戦争】であり、昨夜の士郎が取った問題行動なのだから、頭が痛いなんてレベルじゃ済まない。
正直、この世界の衛宮士郎は、様々な意味でお粗末過ぎた。

普通の神経なら、間違いなく邪魔にしかならない事を承知で、戦闘区域に身一つで割り込んだ挙げ句、その危険性はもちろんだがやっていけない事をしていると言う自覚がないことが、さらに質が悪い。

あくまで、「戦闘による被害を出す訳にはいかない」なんて、一方的な考えから来る独り善がりな行動だと、どうして理解できないのだろう?
寧ろ、そんな自分の身勝手な行動が、余計な被害を生む可能性だって山ほどあるのに。
目先の事しか見ていないから、端から見ていて信じられない行動も平気で出来るのだろう。
他人が傷付く事は嫌う癖に、自分はその勘定に入っていない。
だからこそ、平気で戦闘中に割って入ろうとする事が出来るのだ。

自分の命の重さを、ちゃんと理解していないから。

これは、多分【衛宮士郎】が抱えているだろう、大きな歪みだ。
その事を理解して、誰かが修正しようとしたとしても、そうそう簡単に修正が出来ないほど深層意識化に刷り込まれた、一種のトラウマからくるもの。
しかも、それを増長するような環境が加わった結果、あそこまで歪みきってしまったのだろう。

そこまで思考を巡らせた俺は、思わず小さく溜息を吐いた。
いや、そうして意識を思考から引き離さないと、更に士郎や切嗣に対して毒を吐いてしまいそうだったから、わざと溜息をついたのだ。

あー、うん。
我ながら、情けないことにまだ昨夜の怒りが抜けていないらしい。
士郎の事を考えると、どうしても否定的な目線で物を考えてしまう。
まぁ、仕方がないと言えば仕方がないんだけどさ。

あそこまで、見事に歪んでいるのを目の当たりにしたら、ねぇ。

あそこまでくると、彼が自分の可能性の一つだと言われても、本気で信じたくないと思うし。
てか、人格形成に環境と教育、経験などが大切だと本当に思えてくるんだよな。
俺もこの世界の士郎も、十年前に大災害にあうという同じ経験をしながら、【アーチャー】の存在という、ただ一つの差異だけでここまで大きな差が生まれてしまうのだ。

そう考えると、俺はこれ以上無いほど運が良かったのだと思う。

でなければ、この世界の【衛宮士郎】のように、真っ当なようで酷く歪な人格を抱えて直すことも叶わないまま、朽ち果てるしかなかったのだろうから。

あー、もう!
さっき、思考を切り替えるためについた溜め息が、全く意味を成さなくなってるや。
こんな風に、同じところで思考がループするのは、多分余りに歪過ぎる士郎の姿を目の当たりにして、それを許容出来なかったからだ。
いや……本当は、自分の方が規格外なのだと判ってはいる。
本来なら、到底有り得ないだろう存在に守られ、違う世界を見て歩くき様々な知識を学ぶ機会を得た。
これが、俺に取ってどれほどの奇跡なのか、自覚がないかと問い質されたら、もちろん自覚はあるんだ。

だって、そうだろう?
俺の人格構成に、それらの要素がどれだけ大きな影響を与えたかなんて、言うまでもない事なのだから。

と…まぁ、これについては多分幾ら考えても、きちんとした答えが出ることは無いのだろう。
いや、正しくは明確な答えが出るような問題では無いのだ。
士郎が、人格の根底部分であそこまで歪んでいるのは、過去の経験を踏まえるならば、まぁ仕方がないのかも知れない。
俺だって、アーチャーが居なければ同じだった可能性が高いし。

だから、幾ら未熟さが目についても、今の段階でどうこう言うのは諦める方がいいのだ。
【衛宮士郎】は、まだこれから先に伸び代を残しているのだろうし。

まぁ、いつまで考えても仕方がないし、気分を変える意味でも散歩に行くかな?

枕元に畳んであった、自分の服に手早く着替えると、俺は障子を開けて廊下へと出る。
空はまだ明け切る前で、家に居る中でもマスターの面々は、まだ起きていないようだった。
流石に、サーヴァントの面々は起きているようだが、こちらの動きを特に気にしていないようなので、最初の予定通り出掛ける事にする。

だって、今の自分の冷静さを欠いた心理状態のままだと、それこそ士郎に対してどんな事を口走ってしまうか自信がなかったし。

幾ら気持ちを切り替えたと思い込んでも、多分今すぐに士郎の顔を見て話そうとしたら、間違いなく暴走する自信がある。
それ位、昨夜の士郎の行動に対して俺はまだ怒りを覚えている自覚があった。
だからこそ、頭を完全に冷やして冷静に話し合いをする為にも、この早朝からの散歩は必要な事なのだ。

幾らなんでも、この家に間借りしている立場である以上、家主の事をボロクソに言い負かして再起不能なんて状態にする訳にはいかないしさ。

ちゃんとコートも身に着け、足音と気配を可能な限り消して玄関に向かうと、音を立てないように玄関を開けて外に出た。
やはり、下手に音を立てると静けさが漂うこんな早朝じゃ確実に響くだろうし、それを聞いて下手な勘違いされるのはいやだからな。
そうやって気を配って外に出た所で、背後に誰かが……いや、ライン越しにランサーが立ったの感じて振り返る。
ライン越しに気が付かれるのは、最初から承知だったんだろう。
ランサーは俺が振り返るのと同時に、首を傾げながら問い掛けてきた。

「こんな朝早くから、どこに行くつもりなんだ、マスター?」

興味深げな視線を向けているのは、今の段階で俺が出掛ける理由がランサーにはいまいち判らないからだ。
少なくとも、これから夜が明けていく時間帯である以上、今からこの衛宮邸を出ていく理由に【聖杯戦争】の索敵という項目は上がらないだろう。
流石に、今の時間から出かけても敵を見付けられる可能性は低いからだ。
故に、こんな時間に出掛けようとする俺の行動が気になったのだろう。
少なくても、本気で【聖杯戦争】の索敵が目的ならば、戦闘になった事を考慮して自分に声を掛けない筈がない事を、ランサーはちゃんと理解しているのだ。

まぁ、ランサーを同行しなかったとしても、ここにいるサーヴァント以外が相手ならば、ランサーが駆け付けてくるまでくらいなら持ちこたえる自信はあるけどな。

それでも、心配していてくれる事はちゃんと判るので、俺はランサーの問いかけに答える事にする。
別に、ランサーに対してまで隠すつもりは全くないし。

「……あー、うん。
ほら、まだ昨夜の一件に対して怒り狂ってる部分がおさまらなくて、どうも頭が冷えてない感じだからさ。
ちょーっと時間的には早すぎる傾向にあるけど、それでも早朝の散歩をしてくれば少しはマシになるかな、って。
それに、この街の事をきちんと把握してないと後で困る事になりそうだから、ついでに見て回ってこようかとも思うし。
ま、そんな訳だから、俺は出掛けてくるね?」

矢継ぎ早にランサーに向けてそう告げると、俺は素早く家の門を開けてその間に身を潜らせると、ふと思い出したように振り返り。
俺の反応に、一瞬呆けてしまっているランサーへと向けて決めていたお願いを口に出す。

「そうそう、ランサーはここに残って皆への伝言をよろしく。
この時間帯なら、多分的に遭遇する事は無いだろうし、もし遭遇してもランサーが来るまで持ち堪える事位出来るから安心してくれて良いし。
それは、こう伝えてくれる?
【まだ昨夜の事で怒りが治まらないので、頭を冷やしに散歩に行ってきます。
遅くても、昼前までには戻るつもりなんで、昨夜の件も含めて詳しい話は帰ってからにしますね】って。
もしきちんと伝えてくれたら、後でランサーに昨夜よりもおいしいご飯を食べさせてあげるから。
それじゃ、頼んだからね?」

更にマシンガントークのように言い切ると、今度こそ俺は身を翻してその場を後にした。
もちろん、ランサーが付いてこない事をレイライン越しに確認した上で、だ。

こうしておけば、一応俺が無断外出をした事に……ならないと良いなぁ……

一応、俺とランサーとのやり取りを聞いていただろうアーチャーが止めなかった事から考えて、多分大丈夫だと思う。
大丈夫だとは思うけれど、それでも俺の行動を問題視するだろう相手がイリヤや遠坂だから、実際は微妙かもしれない。
俺に対して、質問したい事を抱えているのもあの二人の方が大きいみたいだし。

それでも、大丈夫だと判断した理由は、俺がこの家の家主である士郎が昨夜取った行動に対して、半端じゃない怒りを示していた事を覚えていてくれるだろうと判断したからだ。

実際問題として、あの場にいるマスターの中で一番戦闘能力が高いのは、多分間違いなく俺だろう。
純粋な魔力に関して言えば、イリヤはもちろん遠坂だってかなり物もだと思うけれど、イリヤはバーサーカーの制御の為に大半を割り割いている為、戦闘能力に関しては殆ど無いと言って良い。
遠坂の方は、魔術も腕前も直接的な戦闘能力もそこそこの物ではあるが、使う魔術が【宝石魔術】であるが故に、威力はあっても大盤振る舞いするには財力の方に問題が出てくるのだ。
それに比べて、俺は魔術を使うのに媒介は不要な上に、純然な戦闘能力もかなり物がある。
少なくとも、あの二人ならばそんな相手に自分から喧嘩を売る事はまずしないだろう。

状況的に、それが必要な状態にでもならない限り。

まぁ、良いや。
幾ら考えても、既にやってしまった事に変わりはないし。
むしろ、ここで考えるよりもさっさとあちこち歩いて回って気分転換を済ませる事の方が、余程有益だよな。
俺自身の気分が落ち着けば、さっきみたいに余計な思考でグルグルとループしなくて済むだろうし。

そう思考を切り替えると、俺はそのまま最終目的地がある新都へと足を向けたのだった。

**********************

素早くあちこちを見て回った俺は、最終目的地である場所へと足を向けた。
そこは、俺……【衛宮士郎】にとって、始まりの場所である嘗ての大災害の跡地とも言うべき【冬木中央公園】だ。
俺がそこを最終目的地にしたのは、ちゃんと理由がある。
まだ、今ならば十二分に早朝だと言って良い時間帯であり、普通の状態でも人気が余りないのはもちろんだが、【冬木中央公園】ならば更に人が居ない事は確実だからだ。

あそこは、あの大災害で亡くなった人たちの怨念が凝り固まり、人が近寄りがたい場を作り出している為か、本来ならば市民の憩いの場になる筈のそこは余り人が居ない。

故に、昼間に魔術に関連する事で何かをしたい場合、時間的に考えても人が来ない確率が高いあそこは最適なのだ。
それと同時に、あそこはこの街の中でもかなり有数の霊地でもある。
遠坂の家や柳洞寺に比べれば、確かに霊地として数段落ちるかもしれないけれど、それでも【聖杯】が顕現出来た事を考えれば、それなりのものなのだろう。
だから、その場所ならば俺が【俺のアーチャー】へ向けて、マーカーを残すのには適切だと判断したのだ。

他の場所だと、霊地に宿る力を借りるのも大変だろうし。

それに、だ。
あそこの霊地を、あのままの状態で残しておくのも、余り良い気がしない。
ついでに、こちらにいる間に簡単な場の浄化を考えていたりする。
その第一回目も兼ねて、俺は色々な事をしておこうと考えていたりするのだ。

ただ、今回の事を実行したら、多分遠坂やイリヤには確実に筒抜けになるだろうけど。

それが判っていても、こんな風に単独で動ける時間なんてそうそうないだろうから、確実にやっておきたかった。
後から、イリヤと遠坂の追及が厳しくなるだろう事が判っていても、止める気にはどうしてもならない。
この場所を放置するのが嫌だって事はもちろんだけど、それ以上にこれは必要な事だと思うのだ。

そう……これからする事は、アーチャーが俺の事を見付けやすくする為の事だから。

だから、多少派手で周囲の警戒を買う可能性があったとしても、止める気にはなれないのだ。
何せ、幾ら俺とまだ限りなく細いラインが繋がっているアーチャーでも、幾重にも重なり無限に広がる世界の中から何のヒントもなく俺を探すのは、かなり至難の技だと言って良いだろう。
今回は、たまたま平行世界の一つに落ちる事が出来たけれど、状況次第によってはどこに飛ばされたかすらわからない可能性だってあったのだ。

そんな可能性から、たった一つを引き当てるのは相当苦労する訳で。

幾らなんでも条件が悪すぎると判断したからこそ、俺はこれを実行する気になったのだ。
尤も、本当はもう少し後にするつもりだった。
状況的に考えて、イレギュラーな俺の存在を世界がどう受け止め対応するのか、見定めた後辺りが本当は一番よかったのだと思うからである。
しかし、だ。
最初はそうやって決めていたものの、こちらの世界の【衛宮士郎】の余りに不甲斐のない状況に、黙って居られなくなってしまったのある。
故に、何時までも実力を隠しておくのも馬鹿らしいし、黙っていたよりも行動を起こした方が余程いいだろう。

総合的に考えて、やはりその方が良いだろうと判断したからこそ、こうして早朝に【散歩】と称して抜けだしたのだから。

今の段階で、俺とこの世界の【衛宮士郎】が平行世界における同一人物だと言う事はばれていない。
ならは、この段階で本来の実力を知られたとしても、比較対象としては見られる事は無いだろう。
もちろん、一部の例外は除いて、だが。
それを踏まえ、こちらで行動を起こしても問題がない事を選択する事にしたのだ。

この行動だって、そう判断したからの行動である。

俺の事を全部話したのは、今の段階ではこちら側に引き込むのに必要だと判断したアーチャーだけであり、そのアーチャーも口の堅さは確実だから他人に話してしまう心配はしなくても良い。
そのあたりに関しては、信用を置いて間違いないだろう。
と言うか、多分アーチャーとしても他言したくないと思う。

俺から聞いた事を話してしまうと、居もずるし気で自分の事を説明する必要が出てくるからな。

幾ら、俺の話を聞いてある程度の希望を抱けるようになったとはいえ、それでもこの世界の【衛宮士郎】の情けなさを目の当たりにしてしまっているアーチャーが、自分と同一人物だと容認できるとは思えない。
そう考えれば、当然だが自分の事を可能な限り伏せようと考えるのは当然である。
だからこそ、未だに遠坂に対して【記憶が完全ではない】と言う嘘を押し通しているのだろうし。
そう言う行動を取ってしまう気持ちがよく判るから、俺はそれを咎めたりするつもりは全く無かったりする。

俺だって、アレが俺の【あり得た一つの可能性】だなんて、そうそう容認したくないもん。

そんな訳で、アーチャーから俺の事が漏れる心配は全くないと考えて良いだろう。
現在、俺のサーヴァントであるランサーはと言えば、そのあたりに関して深く追求してくるつもりはないらしいので、特に問題は無い。
どうやら、ランサーにとって重要なのは、俺が己の主として仰ぐにふさわしいかどうかであって、俺の過去に関してはそれほど気にはしないらしいのだ。
ただ、実力的に不足しているのは困ると考えなくもないとの事で。

俺の場合、そのあたりに関して昨夜の行動がはっきりと明確になっている事もあり、【それなら別に秘密の一つや二つくらいあっても構わない】と言う事らしい。

そう言う点では、ランサーは融通がきくのでかなり相手にするのが楽だ。
細かい事まで気にする相手だと、いちいち説明する手間を考えるうちに面倒になる事もあるし。
お互い、細かな点まで拘束し合うつもりもなければ、互いに詮索し合うつもりが全くないからこそ、こんな感じの関係を築けているのだろうが。

あー、うん。
思考を巡らせるうちに、どうも論点がずれた気がする。

一応、中央公園に着た直後から、俺は【俺のアーチャー】に向けてマーカーを付ける為の準備に勤しんでいた。
そう……ただ何の準備もなく魔力を放出しても、平行世界にいる【俺のアーチャー】に対するマーカーになどならないからだ。
故に、先程から半分以上の意識を己の思考に向けていた分片手間にだが、必要なそれを構築していた。

それは、ある種の指向性を持たせた結界である。

これから行う行為を、更に強化する為の増幅の為の魔法陣だった。
なにせ、この世界以外の平行世界から見ても、はっきりと判るだけの魔術を行使するのだ。
幾ら魔法使いに至っているとはいえ、基本的に俺の魔術は外に向けて行使するのには向いていないんだよね。

だから、俺自身の魔力だけでは目的を果たせないかもしれない。

それでは困るから、こういう準備を怠る訳にはいかないのだ。
何事もきちんとしたした準備から行なえば、成功率は上がるものだし。
やっぱり、何事も計画的に進めるべきだよな。

そう判断したからこそ、俺は時間が余りない状況でもきちんと準備を怠らない。
だって、手間を惜しんで失敗する方が無駄だと判っているからさ。


そうして……必要な準備が整ったなら、後は心の赴くままに祈りを捧げるだけ。


必要な事を済ませた所で、俺は自分が張った結界の中心に立った。
数多ある平行世界の中にいるだろうアーチャーへ向けて、マーカーを撃つのだ。
術者である俺自身が、増幅の為の魔法陣の中心に居なければ、こちらが狙うだけの効果は望めないだろう。

だから、俺は自分の行動を迷わない。

いや、迷う必要なんて欠片もないのだ。
だって、その為にここまで準備しておいて、迷うなんて覚悟が足りない。
そんな中途半端なものしか持てないなら、そもそもこの【聖杯戦争】に関わる資格なんて、持っていないと言っていいだろう。

でなければ、自分の命をチップに戦争に参加するなんて真似、本当の意味では出来ないだろうから。

まぁ、それは別に構わないけどさ。
それよりも、今の俺はやりたい事をやろう。
せっかく、最短の時間を更新する勢いで、支度を済ませたのだから。


軽く息を吸い、胸の中に溜めた俺は、ゆっくりと魔力を乗せながら音を紡ぐ。
こんな早朝、わざわざ新都に赴いたおれの目的は、こうして【魔歌】を歌うことだった。

【魔歌】

それは、ある時は聞く者を魅了し、ある時は聞く者を癒やし、ある時は聞く者を死に誘う【呪歌】である。
有名なのは、【ローレライ】や【セイレーン】だろうか?
あれらは、近付くものを魅了して死へ誘う呪歌だが、俺のは聞く者を癒やす【癒やしの歌】や【浄化】を齎す【清めの歌】がメインだ。
その気になれば、確かにその手の類いも(あの聖杯の泥のお蔭で)可能だが、基本的にやるつもりはないんだよな。

だって、そんなはた迷惑な真似をしても、他人の不幸に喜びを感じるどこかの誰かさんと違って楽しくないし。

今回だって、この場の浄化も兼ねているから、盛大にやる事にしたのだ。
普通なら、俺のような立場の人間が勝手をしていい場所じゃないことなんて、百も承知だ。
それが判っていても、こうして力を使い浄化を行う選択をしたのは、それが出来るだけの力を持ちながら何もせずに放置するのは、【力が及ぶ限りの人を救う】という事を信条にしている俺らしくないと、そう思ったからだったりする。
もちろん、それ以外にもこの場を埋め尽くしている怨みに満ちた魂たちを、他の英霊達に利用されるのを防ぐ目的も確かにあったんだけどね。

だって、あの大災害で命を落としてから、彼等はずっと苦しみ続けていたんだ。
そろそろ、それから解放されてもいい頃だよね?

魔力を含んだ歌声は、俺が張った結界を媒介に増幅し、周囲へと拡散していく。
それでは、意味がないんじゃないかと思うかもしれないけど、実は違うんだよな。
拡散した魔力を伴う歌は、そのままその場に染み込むように空気に馴染んでいくのである。
周囲へと拡散するように、大気に、この地に溶け込んだ俺の魔力は、そのまま他の世界から観察してみれば、到底有り得ない異常な空間を作り出している筈だ。

少なくても、俺やアーチャーのような世界の異常に敏感な者には、まず見逃す事は無い程に。

多分、アーチャーが俺を捜す手段は、ある程度限定出来ると言っていい。
いや……実際はそれ以外に選択肢がないと言っていいだろう。
何せ、数多ある世界の何処にいるか全く判らない状態の俺を捜すのだ。

魔法の領域の協力がなければ、まず無理だろう。

故に、アーチャーは間違いなく遠坂か宝石翁に協力を求めている筈だと言うのが、俺の予想である。
普通なら、宝石翁に協力を求めはしても、遠坂は対象外なのではと思うかも知れないが、彼女はとても優秀だ。
その上、第二魔法の使い手である宝石翁の系譜であり、俺がみる限りでは後継者にも成りうるだけの資質もある。
当然、アーチャーだってそれ位は判る筈で。
と言うか、遠坂が魔法使いの域に到達する可能性を、一番理解しているのはアーチャーだろう。
何と言っても、アーチャーにはあの反則技的な【図書館】が、宝具として存在している訳だし。

だから、俺は安心してこれを行う訳だけどな。

俺は、高らかに声を上げて歌う。
高過ぎず低過ぎず、安定した声音を響かせながら。
ただ、ひたすらに【アーチャーに、もう一度逢いたい】という思いを込めて歌い上げる。
俺の、心の底からの祈りを、願いを……そして魔力を込めた歌声は、全てに共鳴し魔法陣によって増幅され、その上で大気へと拡散していく。
その範囲や込められた魔力は、俺の予想を遥かに越えていた。

これじゃ、キャスターや遠坂達は勿論だが、セイバーやランサーといった魔力感知が低そうな面々も気が付きそうだよな。

これだけ派手に魔力を放ってるんだから、気が付かれない方がむしろおかしいだろうし。
もっとも、今回の【聖杯戦争】に召喚された英霊のうち半数近くは味方か、昨夜の約束で一時的な停戦状態だから、問題ないだろうけど。
一応、ある程度まではこうなるだろうと想定していたけど、それ以上の状況を生み出して気がするし。

まぁ、今更気にしても仕方がないよな、うん。

それより、今、俺が引き起こしたこの状況を考えたら、何かが釣れそうな気がする。
本当にヤバい奴は、一応誰なのか理解しているし、それがこの場で釣れてしまったら、さっさと逃走するつもりだから良いとして、だ。
問題なのは、【聖杯戦争】に関わっていない魔術師が釣れた時だろう。
一部の例外を除いて、基本的に魔術師は目的の為なら非人道的行為も平気で出来る、そう言う存在だ。
平行世界であるここも、魔術師の認識は俺が持つ知識と変わらないだろう。
故に、可能な限り関わらない方が、多分間違いない筈だ。

下手に関わると、こちらにどんな被害に遭うか判らないからな。

まぁ、別に関わらなきゃいい訳だし、そもそもこの魔術師たちがそうそうこの日本に居るとは思えないから、多分大丈夫だと思いたい。
うん。
少々派手にやらかしたから、もしかしたら魔術協会や教会関係者が、【聖杯戦争】の終了後に調査にくるかも知れないけど、それまでにこの地から退散しちゃえば問題ないし。

あっさりそう開き直ると、俺は歌の終わりを歌い上げる。
【魔歌】は、途中で止めると効果が無くなったり、本来のものより薄くなったりするので、きちんと最後まで歌い上げるのが基本だ。
最低限、一小節分だけでも歌えれば効果が出るものはあるけど、そうじゃないものだってたくさんある。
こればっかりは、その場に置いて必要な【魔歌】の効果による為、どうする事も出来ないんだけどね。
なので、こんな風に敵が側にいない時や、敵を抑えてくれる前衛がいる場合にしか、使う事が出来ない代物だったりする。

有効範囲は、それこそ【魔歌】が届く範囲内だからそれこそ他の魔術よりも広いんだけど、防御面で使い勝手がわるいから余り使わないんだよな。

そう、今回俺がこれを使う事にした理由は、有効範囲の広さを取ったからだ。
これが戦闘中なら、前衛役を受け持ってくれる仲間が居ない限り、まず使うという選択をしない。
先程も挙げていたが、せっかくある程度まで【魔歌】を歌えたとしても、敵からの攻撃によって途中で中断させられたら、そこまで歌っていた【魔歌】の効果が薄くなるか、もしくは効果が全く出ない可能性が高いからだ。
【魔歌使い】の中には、一部、例外がいない訳じゃないけれど……それは本当に希少な例でしかない。
常識的に考えれば、戦闘中にそんな危険な真似をする訳にはいかない以上、使用する際に状況を選ぶのは当然の選択である。

そんな危ない橋を渡るくらいなら、もっと有効な手段を考えるのが、俺とアーチャーの常だったし。

まぁ、それはさておいて、だ。
俺の予想より、派手にな効果を示してしまった以上、早く後始末を済ませて撤退するべきだろう。
これ以上、面倒な事態を引き起こす訳にはいかないし。

そう考えながら、増幅の為に使用した魔法陣を消すべく、基点に使用した細身の儀式剣を消した。
今回使用したのは、俺が手ずから打ち上げた実物ではなく、それの投影品だったりする。
だって、これからの状況によっては、即行で逃走する必要があるかもしれなかったし、その場合に手掛かりになりかねない物証を残していくなんて、それこそ恐ろしい真似なんか絶対に出来ないからな。
その点、投影品はこちらの意思一つで破棄できるから、こういう場合には凄く使い勝手がいいんだよね。

今のこの冬木の街で、一般人以外の者が対策の一つもないまま歩き回るのは、危険極まりないし?。

それなら、最初から無茶をしなければいいと遠坂あたりからは言われそうだけど、やらない訳には行かなかったんだから仕方がない。
何もしないまま、ただ座してアーチャーが迎えに来るのを待つなんて、俺の性格に合わないし。
そもそも、アーチャーがこの【聖杯戦争】が終わるまでに迎えに来れる保証だって、実は全くないんだよな。
俺は、アーチャーとのリンクが断絶した時に意識が一時的に飛ぶと言う、軽いダメージを受けるだけで済んだけど、宝具まで使用したアーチャーは、それだけで済んでいる保証は無い訳だし。
その場合、まずはアーチャーの回復から始めないといけない訳で。
当然だけど、余分に時間が掛かるのは間違いないだろう。

あれで、アーチャーは繊細な心の持ち主だから、精神的なダメージだって相応に受けてるかも……

そこまで考えたところで、ちょっとだけ自分が取った行動が浅はかだった事を反省する。
但し、アーチャーに負担を掛けた事は反省はするけど、自分がとった行動に関しては後悔するつもりはない。
だって……そうだろう?

あの時、あの場ではそれ以外に選択肢が存在しなかったんだから、仕方がないのだ。

そりゃ……もう少し、考えればあったかも知れないという奴もいるだろうが、実際は違う。
もし、あの場であの行動以外を選択した場合、被害はが出ていた可能性がそれなりにあったのだ。
もちろん、倭や遊斗がフォローしてくれていたのだから、街に被害は行くという心配はない。
だが、それはあくまで冬木の街に行く被害がなかったというだけで、あの場に参加していた面々は対象外だ。

あの場にいた慎二や桜には、自力で身を守れる保証はなく、遠坂やイリヤだってかなり消耗していて。
英霊達も、様々な形で戦闘をこなした後だったし、そんな状況で【聖杯の泥】を食らったら、正気を保てるかなんて保障出来なかった。
いや……確か、【聖杯の泥】は英霊達に取って猛毒でしかなく、僅かにでもそれを被ってしまったら、属性が反転するなど歪み狂うしかなかった筈。

うん、こうしてあの時の事を改めて考えてみても、やっぱり俺のあの場での判断は間違いじゃなかったみたいだ。

あんなものを被ってしまったら、慎二達はまず間違いなく生き残れなかったのはまちがいない。
何より、味方に属する英霊の中でも戦闘能力が高いランサーやセイバーが【聖杯の泥】を被って変質してしまったら、それこそ後が大変だろうし。

だから、俺の行動はやっぱり間違いじゃなかったんだな。

そんな風に思考を巡らせながら、俺は周囲への警戒を解かずに後始末を手早く済ませていく。
この手の作業は、様々な戦場を渡り歩いている経験がモノを言ってかなり早い方だと言う自負があった。

だって、アーチャーが前衛を張ってくれているうちに、支度から終いまで済ませなきゃいけないんだから、慣れもすれば手際良くもなるさ。

急がないと、そろそろ誰かがここに来るだろう。
そうそう、その気になれば移動距離など問題にならないキャスターが、なんでいきなりここに魔術で転移して来ないのは、多分こちらを警戒しているからだ。

やっぱり、訳が判らない相手を警戒するのは、【聖杯戦争】の参加者として当然だろうからな。

だから、多分キャスターはここでは仕掛けてこないだろう。
彼女からすれば、イレギュラーで済ませるには問題があり過ぎる俺は、まだ手を出すには情報が足りないのだ。
故に、この場に彼女が来るという選択肢は、殆どない。

だから、今この公園に入って来るのを感じた相手は、キャスター以外だろう。
かなり用心深い彼女だから、わざわざ自分の領域である【神殿】から出てくるとは思えないし。
気配からして、英霊じゃない気がするから、【聖杯戦争】に無関係の魔術師の可能性が、多分一番高いだろう。
それも、それなりにこの街で起きている事態を切り抜けるだけの力量を持っているだろう、実力者。
魔術協会や教会側は、この街で【聖杯戦争】が始まった以上、終わるまでちょっかいを掛けてくるとは思えない事を踏まえると、多分それらとは全く立場が違う完全な第三者だろう。

さて、鬼が出るか蛇が出るか。

頭の端でそんな事を考えながら、俺は相手を待ちかまえる事にした。
当初の予定を変更してこの場に残ったのは、漠然とではあるが予感がしたからだ。
何より、俺には先程挙げた条件を全てクリアできる実力者に、何人も心当たりがある。
あーうん、そうだな。
彼らの行動パターンを考えると、何か予想外の変化がありそうなら確認しに来そうだ。
以前、彼等から【自分達の一族はどの平行世界に必ず存在している】と聞いたことがあるし。

それにしても……一体誰が来るのかね?
出来れば、今回も医療関係の能力がある奴が理想的なんだけどな。
それが無理なら、攻撃と補助を両方こなすタイプが来てくれると嬉しいんだけど。

どちらにせよ、彼らのうちの誰かならこの際文句は言わないよ、うん。

桜の事はもちろんだけど、イリヤだって何とかして欲しいし。
イリヤは、アインツベルンから【聖杯戦争】に合わせ調整されている【小聖杯】だから、きちんと手を打たないと余り長く生きられない可能性がある。
それを解っていて、何もせずに放置なんて出来ないよな。

平行世界だとしても、俺に取ってイリヤは大切な家族なんだから。

そんな事を考えながら、全ての後片付けが済んだその場所で待ち構えていると、公園の入り口から走ってくる人影を視界の端に捕らえていた。
まだ、完全に安全な相手なのか把握していない為、視界を魔術で強化しながら相手の顔を確認するべく、視線を向け。
次の瞬間、俺は内心ガッツポーズを取っていた。

よっしゃー!
これで、イリヤの事は問題無くなったし、桜の事だってなんとか成る見通しが出来たよ、うん。

顔には余り出さないまま、【危険を承知でこの場に残る】とう賭けに勝った喜びを胸に、相手が目の前に来るのを大人しく待つ。
こちらが敵意を示さなければ、元々の立ち位置などもあって彼はいきなり攻撃を仕掛けて来ることはないし、ちゃんと説明すれば話し合いで十二分に解ってくれる人だ。
何より、色々な意味で頭の回転が早い上に、有事にあたる際の柔軟性も半端じゃないから、こっちの状況など事情を話せば自分から巻き込まれてくれるだろう。
うん、大丈夫だ。
あそこの一族は、口でなんだかんだ言っていても、最終的には協力してくれてお人好しばかりだし。

思わず、ニコニコと満面の笑顔を浮かべながら待っていると、駆け寄ってきた彼はこちらの顔を見て訝しげな顔をした。
普通、この状況では正体不明の相手を警戒するのが当たり前なのに、俺が笑顔で出迎えた事に対して、彼なりに不審に感じたからだろう。
まぁ、気持ちは判らなくはない。

最悪、出会い頭で敵対する事も辞さない覚悟で、こちらに向かってきたのだろうから。

それなのに、実際に接触した相手から笑顔で出迎えられたら、不審に思うのはむしろ当然だった。
だけど、こういう状況での交渉は先手を取る必要は、やっぱりあるからな。
笑顔のまま、俺は彼に対して口を開いた。

「【はじめまして】で良いかな、優秀なお医者様の団遊斗先生。
俺は、アレクサンデル・クラインクイン。
貴方が誰で、どこの一族出身なのかとか、それこそ色々と知っているから、誤魔化そうとしても無駄だからね。」

ニコニコ笑顔のままで言い切れば、途端に警戒レベルが跳ね上がる。
ま、気持ちは判るけどさ。
誰だって、いきなり初対面のはずの相手から名前を呼ばれて、さらに【何でも知っている】と言われたら、警戒するのは当たり前。
むしろ、それで警戒されない方がおかしいだろう。

全部解っていて、その上でれをやっているんだから、第三者から見たら俺は質が悪いと言われるだろうな。

警戒している彼−遊斗−に、俺は軽く手を上げながら敵意が無いことを示しつつ、事情を簡単に説明する事にした。
やはり、遊斗だって事情を知らないままじゃ、安心出来ないだろうし。
俺が同じ立場なら、同じような反応を返すと思うからさ。

「まず、こちらに敵意がないのは解ってくれると嬉しい。
俺が、あなた達を色々と知っているのは、こことは違う世界であなた方と長年の付き合いがあるからさ。
話を聞いてくれる気があるなら、きちんと説明するけど……どうする?
それとも、簡単に話をした方が良いなら、一言で済ませられる言葉があるけど。」

俺の言葉に、遊人は視線で言葉を即す。
こういう状況では、出来るだけ無駄を省く性格だから、簡単に説明できる言葉があるならそれですませたいのだろう。
そのあたりの事に関しては、長年の付き合いで俺もちゃんと理解しているから、望む通り簡単に済ませられる言葉を口にすることにした。

「簡単に言うと、俺は【俺のいた世界】で遊人たちにとって絶対に縁が切れる事はないだろう【北斗】の実の甥なんだ♪」

それこそ、歌うかのように楽しげに告げてやれば、一瞬で事情が通じたのであろう遊人は一気に警戒を解いて脱力する。
彼らにとって【北斗】とは、それこそ縁が切れる事がない間柄であり、その血縁だと言えばどんな関係を築いていたかなんて想像が簡単に出来るのだろう。
実際、俺にとって遊人とはそれなりに濃い付き合いをしていた自負があるし。


 

 

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