行き着いた先は・・・?


壊れた『大聖杯』の事を、よくも『呪いの塊』だと言ったものだと、俺は思う。

現在進行形で、そう思うと力説してもいい。
目の前の状況に、本気でそんな風に考えたのは、現実逃避と言わないでくれ。
だって…誰がこんな状況を想像出来る?

まさか、並行世界の『聖杯戦争』の始まり……衛宮士郎によるセイバーの召喚に巻き込まれるように、『大聖杯』から一緒に召喚陣の上に吐き出されるなんて、誰も想像出来ないだろう?

ホント、マジで頭が痛いよ、この状況。
普通ならあり得ない状況に、セイバーは俺に対して警戒心バリバリだし、当人であるこの世界の衛宮士郎は呆然としてるし。
ついでに言うなら、俺は外見的に若返ってるみたいなんだよな。

だって、ぴったりだった筈の着てた服が、ダブダブになっているんだもん。

溜め息を付きたくなるのを抑えつつ、冷静に思考を巡らせるまでの時間は、召喚された状況を把握してから僅かに三秒。
これ以上は、セイバーの性格を考えたら時間的に厳しくて掛けられなかった、と言うのが正しいのだが。
いや、うん。
この状況下で、敵か味方か分からない存在を放置する訳がないんだよね。
だからこそ、状況把握に素早く思考を巡らせると、一番片付けなくてはいけない問題を示す事にした。

「……あのさ、ここはどこ?
一体、どういう状況なんだ?
いまいち、この状況が良く判らないんだけど、教えてくれないかな。
俺は、アレクサンデル・クラインクイン。
……それにしても……君、怪我だらけだけど、大丈夫なのか?」

矢継ぎ早に質問等をぶつけ、その上で状況を自分は何も分かっていない態度を取る。
実際問題、アーチャーから以前聞いた話からある程度予測は付けても、それはあくまで予測であって俺自身が確証を持って居る訳じゃない。
だから、どんなに予想が正しくても微妙な差異はあるだろうし、全く状況が違っている可能性もある。

特に、セイバー関連の情報が自分が聞いているものと違っていた場合、どんな状況を招くか判ったものじゃないからな。

そんな風に、パニックになってもおかしくない状況下でありながら、冷静に判断を下しつつも相手に悟られないように気を付けておく。
何せ、『衛宮士郎』は上手く誤魔化せたとしても、残っている片方の相手がセイバーだからな。
『直感』で気が付かれたら、正直俺じゃ言い訳が聞かないし。
だから、あくまではっきりと判っていること以外は口に出さず、不用意な事を言って突っ込まれないように言葉を選ぶ。
もちろん、こちらが幾つか伏せている事があるだろうと気が付くだろうが、セイバーも今の段階ではまだ突っ込んでこない筈だ。

不用意な対応は、召喚主である『衛宮士郎』の不審を招くから。

出来るだけ、こちらの手札はまだ晒したくないので、腹の探り合いのような会話をするのは許してほしい。
後で時間が出来たら、ちゃんとセイバーの誤解を生まない程度の言い訳をさせてもらうからさ。
何より、だ。
俺が【知識として】知る限り、現在俺たちが置かれている状況は、こんな風にのんびりと話している場合じゃない筈なんだけどな。

だって……ランサーが土蔵の外で待ち構えているはずだし。

目の前の『衛宮士郎』が現時点で負っている傷も、彼が通っている学校において心臓に負わされて治療された傷も、犯人はランサーだったよな。
俺の時は、その出来事を逆に利用して色々と画策したけど。
そう考えると、やっぱり現状でこんな風に睨み合っている場合じゃない。

何より……本気で『衛宮士郎』の怪我の具合が心配だった。

ランサーに命を狙われ、逃げ惑った結果でついた傷だ。
幾らセイバーと契約すれば、体内に埋められている『アレ』のお陰でかなり高速で傷が癒えるとはいえ、それでもこんな風に血が流れ過ぎるのは良くない。
特に、心臓を一旦破壊されたときに流れた血の量を考えるなら、これ以上の出血は望ましくなかった。

今の彼に必要なのは、手早い治療と敵からの身の安全の確保だろう。

身の安全の確保に関しては、セイバーが召喚されてこの場に居るから大丈夫だとして、だ。
幾ら、彼女との契約そのものが済めば治癒能力が発動するとはいえ、現時点で見えている怪我の治療をきちんとしておかないと、やはり俺としては心配な訳で。
だが……現状では、直ぐ側に召喚されたセイバーがこちらを警戒している為に、そうそう簡単に事が運ばないのだ。

……うん、決めた。
ここで、戸惑っている時間なんかないよな。
セイバーだって、まだ目の前に座りこんでいる『衛宮士郎』に対して契約に関しての宣誓をしてないし。
だったら、俺だって思うように動いても問題ないだろう。
そのせいで、セイバーを刺激したとしても、目の前でけがをしている相手の事を放置する方が精神的に辛いし。

スパンっと自分の中でそう割り切ってしまうと、次の行動はとても速かった。

セイバーの視線が気になっても、それを無視して迷うことなく『衛宮士郎』の前に素早く移動すると、コートの内側に縫い付けてある小型の簡易治療用医療キッドを取り出す。
それをそのまま床の上に並べるのではなく、薄いシートを敷いた上に置くと中から一般的な消毒液や絆創膏を取り出してそれを治療を受ける当人に見せた。
本当にあくまで一般的に使われるものばかりで、彼自身もよく知っている馴染みな深いものばかりだ。

「ほら……そのままにしておいたら、貧血だけで済まないだろ。
とにかく、一旦消毒して絆創膏を貼ってくれ。
結構、細かい傷が多くて出血しているみたいだしさ、治療もせずそのままの状態の君を見ているこちらの方が痛くなってくるだろう?
この消毒液とかなら、普通に薬局で売られているごく一般的なものだし、見ず知らずの俺の所持しているものでも安心して使えると思うんだけど……気に入らないかな?」

全部、ビニールに包まれた未開封のものだと示してやりながら、使っても問題がないことを示しておく。
こういう場合、開封済みの中途半端に使用しているものより、未開封の物の方が変な薬品が使われていない事が判りやすいから安心して貰えるだろう。
そう判断したからこそ、わざと全部未使用の物を並べたのだが。
わざと未開封の物を出した、こちらの意図を察してくれたのだろう。
『衛宮士郎』は、俺が差し出したそれを素直に受け取ってくれた。
俺たちが割に和やかなやり取りをしている間にも、外で待っているだろう相手の殺気が強くなってきている。

どうやら、せっかくサーヴァントが召喚されたのだから、戦いを楽しむ為にも『衛宮士郎』が無事に契約するまで勝負を待つつもりだったようだが、なかなかこちら側が土蔵から出て来ない事に焦れて苛々してきたらしい。

や、うん。
別にランサーに対して、悪気があった訳じゃないんだけどな。
ほら、色々な意味でイレギュラーな召喚と言うべき俺の存在が、セイバーをすぐさまランサーの元へ赴かせなかっただけで、別にそっちの思惑を邪魔するつもりはなかったんだよ、うん。
そりゃまぁ……【俺】がマスターとして参加した【聖杯戦争】じゃ、ランサーには色々と世話になった事でもあるし、彼にはお礼をしたいと思わなくもないんだけど、さ。

俺、この戦いに関わっても大丈夫だろうか?
まぁ……今はそれよりもこの膨れ上がった殺気の方を、何とかするのが優先だよな、うん。

そう判断した俺は、まずこの状況を打開するべくセイバーに視線を向けた。
ランサーと直接対峙して、真っ当に勝負できそうな相手と言えば彼女しかこの場にいない。
『衛宮士郎』が敵わないのは言うまでもないが、俺だって似たようなもの。
それこそ、俺に出来るだろう様々な打てる手を打った状態で、ギリギリ数分しか持たないだろう。

このままでは、外で待っている奴がこの土蔵すら壊しかねないと説明し、何とかセイバーをランサーの元へと向かわせた所で、俺は改めてこの世界の『衛宮士郎』の事を観察した。
もちろん、外の流れが狂わないように、士郎が土蔵の入口へ移動する後に続き、彼らの会話や戦闘状況に注意を払った上で、だ。

やはり……目の前の『衛宮士郎』の魔術回路はまだ一つしか開いていないらしい。

これでは、確かに今回呼び出された中で一番魔力を消費するだろうセイバーを、通常の契約で支えられる筈がない。
まぁ……本来踏むべき手続きをすっ飛ばした結果、不十分な契約になってまともにラインが繋がってないから、今の段階では問題ないみたいだけど。
そこまで考えた所で、場の空気が変わった。
どうやら、セイバーがランサーの逆鱗か何かに触れたか、もしくは正体を言い当てたかしたんだろう。

さて……それじゃ、俺も動きますか。

素早く状況を把握すると、俺は士郎を土蔵の入口に残し、おもむろに戦闘中の二人の間へ割り込んだ。
唯でさえ、宝具を放つために殺気立っていたランサーの気が、更に凶悪に膨れ上がる。
セイバーも、突然の俺の行動に不審気な視線を向けているが、今の俺が立っている位置なら、いざとなればランサー共々斬り捨ててしまえば良いと判断したらしく、黙って成り行きを見定めているらしい。
その判断に、俺は心の中で感謝しつつ、やるべき事をやるために動く事にした。
内心、ランサーからの殺気に気押されながらも、表面上は何でもないような顔を俺はランサーに向ける。

「……戦闘に割り込んで済まないが、これ以上は今の段階ではお前に然程の益は無いだろう?
全力で戦う事を、禁じられているみたいだからさ。
それなら……これ以上、無益な戦いをこの場で続けるより、旨い飯を食った方が徳だろう?
そういう訳で、良ければ一緒に食事をしていかないか、ランサー。
勿論、食事には一切の細工はしない。
その上で、極上の料理の味を保証しよう。
どうする?」

突発的な俺の言葉に、動きを止めたランサー。
いきなり動きが止まったランサーに、いぶかしむような視線を向けているセイバー達とは違い、俺はその理由がちゃんと分かっていたので、特に気にする事無く返事を待つ。
まぁ……この場合、ランサーに出来る返答はほぼ一つしかないんだけどな。
そう、マスターに命じられて強制的に撤退しなくてはいけない状況でない限り、ランサーにこの誘いを断る事は出来ない。

なんたって、ランサー自身が立てた誓約の一つ、『目下からの食事の誘いを断らない』に引っ掛かるからな。

そこで、判っていながら仕掛けた俺の事を悪どいとか言うなよ?
言われなくても、かなり質が悪いことなんて百も承知だ。
そう……俺自身、どこまで干渉しても良いか判らないから、いっそ最大限まで干渉しようと決めた結果の行動なんだよな。

だって、いつまでもあんな奴の下にランサーを置いておきたくなかったし。

だけど、勘の良いランサーに仕掛けるならば、余程タイミングを図らないと無理だ。
『矢避けの加護』もあるから、遠距離からの不意打ちは効かないだろうし。
『あちら』で俺とアーチャーが取った手は、ある意味難し過ぎて出来ない。
と言うのか、アレが出来たのはこの世界でも『あのタイミング』以外には無いだろう。
それ位、この後のランサーの動きは見えなくなるから。

いや……違うな。
ランサーは、殆んどの場合、思うように動けないまま序盤で退場する羽目になるんだ。
それが気に入らないから、俺は干渉を決めたんじゃないか。
『あちら』のランサーは、それこそ最高のパートナーと共に思う存分戦えたから、そりゃ満足そうだった。
あぁ、そうか。
なんで気に入らないのか、その理由の一つが判った。
目の前のランサーは、気に入らない相手に令呪の縛りで従わされていて、それでも何とか戦いだけは満足しようと足掻いている。

だけど、今のままじゃかなり高い確率で、その願いは叶わない事を知っているから、だ。

知らなきゃ、そのまま多分何もしなかっただろう。
だけど……その事実を知ってしまって、その上でそれが共に戦った仲間だったとしたら……俺には、とても放置なんて出来ない。
それが、どんな結果を生むかなんて知らない。
俺の『アーチャー』がいれば、その先の運命の変化を先読みすることも出来たかもしれないが、居ない相手の事を頼って居る場合じゃないだろう。

普通なら、先の事なんて判らないのが当たり前なんだから。

腹さえ括ってしまえば、後は早い。
元々、己の中で必要な判断さえ下してしまえば、行動は早い方だという自覚はあったが、今回は特別だ。
下手に迷うよりも、『何をしたいのか』根底にくるそれを定めたら、後はそれが揺るがないように気を張って、先へと進むだけだ。

そこまで俺が思考を巡らせるまでに使った時間は、ランサーに問い掛けてから僅かに五秒。
俺が、思考の海に意識を飛ばしながらも、真っ直ぐにランサーを見詰めている間に、彼なりに考えを纏めたらしい。
警戒を露にしながら、それでもどこか楽しげな様子で声を掛けてきた。

「まるで、俺の正体を知っているばかりの態度だが……てめぇ……一体何者だ?」

あからさまな挑発を含めたそれに、俺は特に気負う事無くにっこりと受け流し。
クルッと身を翻し、ランサーとセイバーに背を向けて元居た士郎の下へと足を向ける。
数歩、歩いた所でランサーから放たれる殺気に根負けしたように首だけ振り返ると、一言。

「俺の名は、アレクサンデル・クラインクイン。
事故でこの世界に落ちた、魔術具専門の鍛冶師見習いさ。
お陰で、魔術絡みの呪具や『伝説』『神話』に伝わるアイテムや武具にはかなり詳しい自負はあるよ。
そこまで言えば、大体想像付くだろう?
なんで、俺があんな風に声を掛けたのかが、さ。」

軽く肩を竦めながらの言葉に、ランサーは納得いったかの様に頷いた。
確かにそれならば、自分の正体が判るかもしれないと考えてくれたらしい。
俺は、そのランサーの判断に『詮索されずに済んで良かった』と思いつつ、改めて士郎の前に立った。

「あのさ、お兄さん。
随分勝手な話だと思うかもしれないけど、ランサーに『食事をしないかって』申し出ちゃったから、台所と材料を貸してくれないかな?
もし貸してくれるなら、お礼の代わりとしてお兄さんやセイバー達の分も作るから。
……駄目かな?」

上目遣いで、ちょっとだけ申し訳なさとすがるような仕種で問えば、士郎は困惑した顔のまま頷いてくれた。
やはり、昔の話としてアーチャーに聞いた通り、この頃の『衛宮士郎』は困っている人を見ると放置出来ない、相当なお人好しらしい。
こんな風に頼んだだけで、困り顔をしながら承諾してくれたのだから。
セイバーは不満気だが、マスターである士郎が承諾してしまった以上、文句を言えないのだろう。
それに、だ。
元々食い意地が張っているセイバーは、俺が言った言葉に惹かれているのだろう。
その辺りに関しては、『あちらの世界』でも変わらなかったのでまず間違いない筈だ。
ただし、それをネタにからかうつもりはない。

俺だって、我が身は可愛いし。

特に、今はまだ彼女から警戒対象として見られているんだから、これ以上の無理は出来なかった。
只でさえ、ランサーとの戦いに割り込んだ後の反応が静か過ぎて怖いし。
出来れば、これ以上不用意な真似は控えたいのが、俺の本音なんだよな。

それに……俺にはもっと気になる相手が出来ちゃったし。

さて、早めにその相手に対して仕掛けた方が良いよな。
ランサー達も、俺より早くその相手に気が付いているみたいだし。
彼らが動かないのは、まだ完全に停戦状態になって居ないからだ。
今の状況で下手に片方が動けば、もう片方がどう動くか判らない。
だからこそ、付け入る隙を与えない為にも、ランサーとセイバーの二人は動かないで睨みあって居るのだ。
もちろん、外の動きにも気を配りながら。
特に、単独でこの中に居るランサーは、警戒しているように見えなくても、実際はかなり高い警戒状態にある筈だ。

マスターが狙われる危険は少ないが、己への攻撃の可能性が高いことは、外に居る相手に辺りがついた時点で理解しているのだから。

それが判っているからこそ、セイバーもうかつに動けない。
俺の事を、完全に士郎の味方だと判断していない彼女は、士郎を守るのは自分だけだと思い込んでいる。
故に、下手にランサーの暴発を誘うような行動は出来ないのだ。
せっかく、俺の言葉によって現時点での戦闘を思いとどまっているのに、そこを刺激して士郎に危害を加えようとされても困る。
彼女自身としては、ランサーからの攻撃からマスターを守りきる位の事は出来るつもりではいるものの、宝具の特殊性次第によっては万が一の可能性もあるのだ。

ならば、このまま大人しく食事をして帰ってもらう方がマシだと考えるのが普通である。

セイバーとて、常に相手を倒す事ばかりを考えている訳ではない。
特に、己のマスターが素人同然なのが丸判りな状況下において、無理をすればマスター共々敗退する可能性が濃厚な事が判っているなら、尚の事。
こんな序盤で、あっさりと脱落するつもりなど彼女には全くないのだから。
故に、ランサーへの警戒は一応するものの、あちらが動かない限り自分からランサーへ仕掛けるつもりはなかった。

寧ろ、警戒対象となっているのは目の前のマスターよりも幼い少年や、塀の向こうに居るだろう新たなサーヴァントとマスター達だと言っていいだろう。

そう……現時点で、アーチャーと一緒に遠坂がこの塀の向こう側にやってきている。
これに関しては、どの歴史の流れを辿ったとしても【衛宮士郎】が学校で【遠坂のサーヴァントとランサーの戦い】を目撃している限り、変わる事はないのだ。
【衛宮士郎】が【聖杯戦争】に関わる以上、変わる事がない因果律だといってもいいだろう。

それ故に、まず彼女が塀の外に居る事は間違いなかった。

俺がマスターでなくてもこれ位の予想は立つし、何よりランサーとセイバーの緊張具合が微妙に変化している事を考えれば、まず間違いない。
実際問題として、上手く気配を隠しているようだが、俺には【魔術師】が居る事は丸判りだし。
ふむ……ほぼ確定事項で、外に遠坂が居る事が判っているんだから、そろそろこちらから仕掛けてもいいんじゃないかな。
よし、そうと決めたら早速動くとしよう。

「……さて、そろそろ本当に食事を作るとして、だ。
ランサーもセイバーも、そんな風に睨み合ってても仕方がないだろう?
あー、そうそう。
そこの塀の向こう、コソコソとこちらの様子を窺って居るアーチャーとアーチャーのマスター。
あんたらもどうだい?
そちらに戦う意思がないなら、素直に出てきて欲しい。」

真っ直ぐ、揺らぐ事のない視線を塀に向けてはっきりと言い切る。
俺の言葉に、僅かに揺らいだ外の気配。
既に気が付いていたセイバー達は、俺が気が付いていた事に感心した表情を浮かべながらこちらを見ている。
士郎に至っては、全く俺が言っている事が解らなかったらしく、困惑しながら首をかしげているが、俺はそれを気にせずに言葉を続けた。

「……もし、こちらの言う通りに出て来てくれるならば、客としてちゃんと扱ってやるから。
これに関しては、セイバーにもランサーにも文句を言わせないから、安心して出て来て構わない。
ついでに、この『聖杯戦争』に関して、必要な知識を全く素人なセイバーのマスターのお兄ちゃんに、解り易く教えてくれると助かる。
残念ながら、俺は概略を人から聞いただけで余り詳しくなくてな。
人様に説明出来る程の事までは、流石に知らないんだ。
あー、うん。
俺が一体何者なのか、それを本気で知りたいと思うなら、このまま一緒に来た方が良いぞ?
どうせ調べたって、解りっこないんだからさ。」

これに関しては、間違いないのではっきりと断言しておく。
俺の事を本気で調べるなら、【第二魔法の使い手】以外には無理だ。
なにせ、セイバーと一緒に召喚された形にはなっているものの、実際には閉口世界の一つから事故のようなもので流れ着いた存在だし。
そんな俺の事を、魔術関連の者でも真っ当な方法で調べてわかる筈がないのだ。

だからこそ、こうやって言う事で遠坂に対して揺さぶりを掛けているのだが。

俺の言葉に揺らぎながら、まだ動こうとはしない遠坂とアーチャーに対して、俺はもう一つの札を切る事にした。
こう言えば、絶対に出てくる筈であると踏んで。

「出てくるんなら、俺が【危害を加える事無く食事に招待する】と譲歩してるうちの方がいいと思うけど?
一応、俺にだって戦う手段はあるし、何より……俺が食事の支度をしている間、手が空いてるランサーと再戦してもらってもいいんだからな。
ランサーに掛けられてる令呪は、【全員のサーヴァントと戦い、引き分けろ】みたいなものだろうから、既に一度戦ってるアーチャーには分が悪い筈だぞ?
それに、丁度いい機会だからセイバーも参戦する可能性もあるかもな?
この戦いは【誰かが最後に残るまで】なんて代物なんだから、序盤戦のうちに潰せる相手はつぶすのが定石だろうし。
あ、そうそう。
もしそういう状態になるなら、士郎は俺が奥に連れていって参加させないんで、狙うのは無理だと思ってくれ。
それと、この辺りでアーチャーの宝具を使おうものなら、一般への被害は相当甚大なものになるからな。
ちゃんと、最初から除外して考えた上で行動しろよ?」

そう言いながらも、アーチャーが突発的な行動を起こした時の事を考え、士郎を後ろに隠し【熾天覆う七つの円環】を引き出せるように準備しておく。
勿論、それをアーチャーにはもちろんだが、周囲の面々にも気が付かれないように気を配るのは忘れない。
下手に察知されてしまったら、どんな対応をされるか判らないからな。

しかし……この札を切ってもまだどうするのか、決めかねるらしい。

普段の、踏ん切りの良い遠坂にしてはなやみ過ぎのような気がするが……まぁ、慎重になるのも仕方がないよな。
ここで失敗したら、それこそ【聖杯戦争】での負けが確定しかねないんだし。
仕方がないな……こうなったら、もう一枚札を切るか。

「立ち去らないくせに、このまま本気で出て来ないつもりなら、それなりに俺にだって考えがある。
この場で、あんたの真名と能力をバラしてやろうか?
確か、この『聖杯戦争』じゃ、マスターにすら真名を伏せてたんだよな?
召喚時のミスで、記憶が曖昧だったせいで。
確か、その筈だったが……違ったかな、アーチャーのマスター?」

この時点で、絶対に当事者であるアーチャーと遠坂しかしらない事を告げながら、確認を取る俺。
すると、塀の外の気配が一気に変わる。
あからさまな動揺と、痛いくらい鋭い殺気に晒されたが、その程度で怯むような可愛いげなど、俺の中からとっくの昔になくなってるから至って平気だ。
ただ、その余波を受けた士郎が青くなってるのは、少々いただけないかも。

うん。
何か気に入らないし……苛めてやるとするか、アーチャーの事。

様々な状況から考えて、俺の事をアーチャーが知らないのは仕方がないと判っていても、やはり気に入らない訳で。
事情を知る他人から見たら、間違いなく『八つ当たり』だと判っていても、今の俺には止めようという気は起きなかった。
気配を探ってみた限り、アーチャーは遠坂の事を庇うように立ち位置を取りながら、警戒と殺気を高めてるんだもん。

そこ、『それは嫉妬だ』とか言うなよ?

『聖杯戦争』を正しく知るものなら、アーチャーの対応は正しい事が分かる筈だ。
現状において、敵に成りうる英霊が二騎も塀の向こう側に存在しているのだ。
あらゆる対応を取る為にも、マスターである遠坂を後方に控えさせるのは、極当たり前の行動だろう。
戦場を知る者として、その当然とも言うべき行動に対して嫉妬する事はない。
そうじゃなければ、十三の頃から受けていた仕事の中で、何度もあった『護衛』など出来ないじゃないか。
仕事を受ける度に、『護衛対象』に嫉妬していたら、それこそ身が持たないしな。

そんな風に思考を巡らせていても、まだ塀の向こう側の気配は動かない。
仕方がないなぁ……
やはり、早くアーチャーたちにこちら側に来てもらうよう、俺は最後の揺さぶりを掛けなきゃ駄目らしい。

「……また、だんまりか。
それじゃ、仕方がない。
今からつ数えるうちにこちらに出て来ないなら、その時点で今あげた事を全てこの場に居る相手にバラすから。
俺は、そちらが不利になったとしても、一向に構わないしな。
どうする?
早く出てきた方が賢明だぞ?」

再度、言葉による揺さぶりを掛けてやると、俺はゆっくりと手を広げて数を数える体勢に入る。
そのまま、ゆっくりと口を開こうとした瞬間、俺が望んだ変化……そう、塀の向こう側の気配が動いたのだ。
どうやらアーチャーは、遠坂を抱えて一気に塀を飛び越えてくるつもりらしい。
塀の向こう側の気配の変化に、警戒のレベルを上げかけたセイバー達を手で制するのとほぼ同時に、俺の予想通り遠坂を抱えたアーチャーが塀を飛び越えてきた。

それこそ、不満いっぱいといった様子で。

不承不承と言った体で姿を見せた、アーチャーと遠坂の姿を視界に収めながら、俺はまず当初の予定の第一段階がクリアできたことに安堵していた。
この予定は、この世界の状況をある程度判断した段階で簡単に組んだものであり、実際にはそれほど精密なものではない。
事実、アーチャーたちをこちらの前に引き摺り出すだけでかなり手間を掛けているのだから、その計画性がそれほど高くない事を示しているといっていいだろう。

もう少し時間に余裕があれば、相応の仕掛けやら心理戦を仕掛けてやるのだが……これだけでもアーチャーが相手ならば御の字だと思うべきだろうか?

とにかく、あの二人をこうして敵対しない事を約束させた上で衛宮邸内に引き摺り込めただけでも、話は進展したと考えて良いだろう。
ここから先、細かな話をするのにはこの結界の中じゃないと些か拙いものがいくつかある訳だし、こんな形で顔を合わせる羽目になった事を現時点では不満に思うだろうが、大目に見て欲しいところだ。
実際問題として、余り人に聞かれたくない類の話をする必要があるかもしれないのだし。

特に、アーチャーを落とす為に必要な手段は半端じゃないだろう。

それが予想出来ているだけに、どうやって落としてやろうかと俺はとにかく幾つもの対応策を練るべく思考を巡らせ始めた。
今夜には、もう一組と接触しておく必要があるし、何よりその相手をするには遠坂たちの協力も必要なのだから、出来るだけ相手を巻き込むような形の案を考えておく必要がある。
万が一、上手く丸めこめなかったとしても、そんな風にこちらの成り行きに巻き込んでしまえば、今夜だけの限定だったとしても力を貸してくれる筈だ。
あれで……顔見知り以上の他人の事を、あっさりと見捨てられるような性格をしていないのだ、遠坂は。

そうなれば、このままの流れでいけば今夜遭遇するだろう【あの相手】に対抗する手段が増える事になる。
もちろん、それまでに幾つかの段階を踏む必要があるだろうが、今夜の遭遇はある意味必須事項なのだ。
この段階での遭遇がなければ、次にどの状況で遭遇できるか判らないし、何より……最悪の場合、俺たちが遭遇する事がなかったとしても遠坂たちが遭遇してしまう可能性すら出てきてしまう。
今の状況で、そんな状況に陥ったら……ほぼ間違いなく【あの相手】は遠坂たちをこの段階で潰そうとする筈だ。

自分たちの目的を果たす為に、一番の障害となるのはやはり【聖杯御三家】の一つと呼ばれる遠坂の家なのだから。

だとすれば、やはり今の段階で話を付けて一時的だとしてもこちら側について欲しい。
それが駄目なのならば、せめて今夜だけは……【あの相手】と遭遇するまでは行動を共にして欲しいのだ。
でなければ、今夜を乗り切る事は出来ないだろう。
俺自身、直接戦った事があるからこそ、判る。

多分、【あの相手】こそが、今回召喚された中で純然とした力だけならば、文字通り【最強】の名に値するだけの相手だから。

それを理解しているからこそ、俺は遠坂たちをこんな風に強引に招き入れる真似をした。
この家の本来の主である士郎すら、ある意味無視する形になっても。
彼自身、この特異な状況下では仕方がないと思ってくれているらしく、素直に俺の行動を受け入れてくれているから問題になっていないが、本来ならば【不法占拠だ】と言われても仕方がない状況なのだ。
全部判っていながら、ごり押しに近い行動をとる理由は……何度も繰り返すがただ一つ。

【あの相手】と対峙する為には、どうしてもある程度の力は必要だから。

今までの行動は全て、そこまで見越しての行動だ。
俺がこうしてこの世界に来て干渉した結果、大きく変化が出るだろう事は既に判っているが、それでもその変化が現れ始めるとしたら、ほぼ明日から。
少なくとも、今夜の【あの相手とそのマスター】の行動は変わっていない筈。
故に、それに合わせて動くとするならば、やはり新都へと向かう必要があるだろう。
ただし、あくまで新都側にあの時間帯に到着するだけで大丈夫だ。

あのムカつくだろう相手に、直接接触する必要はない。

寧ろ、俺としては士郎と【奴】を接触させたいとは到底思えなかった。
この世界の士郎は、俺とは違って【奴】が吐くだろう言葉の【毒】に対して、対して抵抗するすべを持っていない。
逆に、自覚なしにその【毒】に身体を侵されてしまう可能性すらあった。

だったら、新都側に行く口実に使ったとしても、実際に接触する必要はないだろう。

俺はそう判断しているからこそ、こんな風に時間にゆとりをもった対応をしているのだ。
余り早く行動を起こすと、タイミングを外して【奴】の本拠地まで行く羽目になるからな。
あんな気持ち悪い場所、行かなくて良いなら絶対に行きたくないし。

うん、この方向で話を進めるのは確定としておこう。

さて……俺の突飛過ぎる行動に、文句を言う事無く静観しているランサーとセイバー。
彼らからすれば、俺の正体が何者なのかは判らなくても、ある一定以上の情報を握っているものだと判断したからこその、静観。
確かに、【聖杯戦争】は英霊同士の戦闘が中心になるとはいえ、様々な情報も戦況を変える可能性がある為に大切だという事を理解しているからこそ、俺の握る情報を引き出したいと考えているのだろう。

何せ、俺の持つ情報や能力次第によっては、本気でどんな形で流れが変わるか判らない可能性が、目の前のアーチャー達とのやり取りのお陰で出てきているからな。

これに関しては、アーチャーや遠坂も同じような考えを頭の端に持っているだろう。
寧ろ、本当に深刻な立場なのが彼らの方だといっていい。
なにせ、俺に【アーチャーの真名や宝具の能力をバラす】って脅されてるし。

この面々の中じゃ、多分切実な問題を抱えるアーチャーが一番俺を警戒しているんじゃないだろうか?

アーチャーや遠坂が、今の段階でどう考えていようと、俺はそんなに気にしない。
この状況に不満だろうが、そんな事はこれから何とかする必要がある問題に比べたら、些細なものでしかないからな。
特に、桜の一件は遠坂にとって他人事ではない。

『魔術師』としての家の事情から、まともな交流すら許されない状況にあるものの、大切なたった一人の妹なんだから。

この辺りの状況も、間違いなく変わって居ない筈だ。
でなければ、遠坂と士郎の間柄がもう少し変化している筈だからである。
それがない以上、遠坂の家から間違いなく桜は間桐の家に養子に行っているだろうし、そうなれば彼女の身に起きただろう悲劇は、ほぼ繰り返されている筈で。
予想の範疇を越えていないが、それでも俺は動かない真実だと俺は思っていた。

マキリ臓硯の妄執は、他を犠牲にする事に躊躇などない以上、贄に最適な桜を手に入れて何もしないなどあり得ないことなのだから。

だからこそ、桜への虐待ともいう仕打ちは半端ではない可能性は高い。
自尊心が高い慎二が、真実を知ってそれを更に熾烈なものにしているだろう事も。
そして……その事実を知れば、遠坂はまず黙っていないだろう。

彼女は、桜の幸せを誰よりも願っているのだから。

と、まぁ真面目な理由はさておき。
俺としては、既に一度は命を掛ける位に真面目に戦った『聖杯戦争』を、二度も繰り返さなきゃならないんだから、多少のお遊びを入れても構わないかと思っていたりする。
だって、仕方ないじゃないか。

あれ程苦労したのに、平行世界でまた同じ事の繰り返しなんて、やっていられるかっての!

不満も不平もこれでもかって位にあるし、それを発散させる術を探したら、やはり俺なりに楽しみながら参加するしかないんだよな。
もちろん、俺なりに『遊び』を入れるとしても、全てに対して中途半端に干渉するつもりないし、必須事項はちゃんと押さえていくつもりだ。
『遊び』が過ぎて失敗するなんて、笑えない事態を引き起こすつもりもないし。
やはり、その為にもアーチャーとランサーは味方に引き込んでおきたいよな。

戦力の確保は、色々な点から考えても必要事項だし。
でもなぁ……目の前のアーチャーは、俺を警戒してすんなり話を聞いてくれなさそうだよな。
さて、どうやって誘導したらアーチャーと単独で話が出来るかねぇ。

俺は、塀を越えてこちらの招待に渋々応じた二人に視線を向けながら、頭の中で素早く思考を巡らせた。
この場に、俺の本当の意味での味方は居ない。
あの士郎ですら、他から比べればほんの僅かとはいえ、俺に対して言い様のない畏怖を抱いている。
まぁ……現状において、俺が様々な理由から周囲から警戒されているこの状態は、今までの行動を考えればこの際仕方がないとして、だ。
俺としては、とにかく最低限、必要な話をこの面々に聞いて欲しかった。

ただし、ランサーはその前に厄介なマスターとの契約を切った上で、だけど。

さて、どう言ってアーチャーと二人きりで話せる状態にするかね。
遠坂に関しては、アーチャーが側を離れている間、ほぼ間違い無く士郎がセイバー達の間に入って守ってくれるだろうから、正直に言って心配していない。
その事については、間違いないと確信している事だし、『エミヤシロウ』の基本観念だから間違いないだろう。
寧ろ、問題となるのは、アーチャーを遠坂から引き離して連れて行く方法である。

素直に俺の言葉を聞くとは、今までのやり取りから考えたら思えないよな。

溜め息を吐きたい気分になりながら、一旦思考を切り上げ俺は視線を改めて遠坂達に向ける。
因みに、ここまで思考を巡らせていた時間は、僅かに三秒である。
一先ず、彼らにも名を名乗るべきだろう。
そうしないと、遠坂の名前を本人から聞けないから、呼び方が『アーチャーのマスター』のままで不便だし。

「さて、こうしてこの場にいるもの全員が顔を会わせたのだから、改めて名を名乗らせて貰おう。
俺の名は、アレクサンデル・クラインクイン。
魔術具専門の鍛冶師見習いで、魔術使いさ。
魔術師を名乗れる程の才能はないから、魔術使いを名乗っている。
さて、英霊の皆さんは良いとしても……マスター達には名前を教えて貰いたいものだな。
一々『何々のマスター』など、呼び難くて仕方がないだろう?」

自ら名乗り、その上で名を尋ねる事によって、相手に名乗るのを断らせ難い状況に持っていく。
この辺りは、交渉の初歩とすら言えないだろうが、やはり自分に優位に話を持っていくつもりならば、相手を自分のペースに巻き込むべきだろう。
そう考えた上で、俺は自分から自己紹介をしたのだが、遠坂はそれに気が付いたらしい。
良く知らない相手ならば、まず見落とすだろう微妙さで表情に出ている。
逆に、士郎の方は俺が名乗った理由を額面通り受け止めたらしい。
確かに、俺の言う通りだと思ったらしく、真っ直ぐこちらを見て。

「そう言えば、助けてくれて手当てまでして貰ったのに、名前もまともに名乗っていなかったな。
俺の名前は衛宮士郎。
そうだな…俺は、魔術使いの見習いになるのかな?
大体、この状況がいまだに良く分かってないし。」

最後の方は、困惑した様子で告げる士郎の言葉に、俺はにっこりと笑い掛ける。
うん、素直に名乗ってくれた相手には、ちゃんと相応の態度を取るさ。

「衛宮士郎……なら、これからは士郎お兄さんって呼んで良い?
俺のことは、アレクって呼んでくれれば良いからさ。」

正直、その呼び方もどうかと思いもしなくはなかったが、状況から考えて一番無難な呼び方がを選んでおく。
せっかく、外見が目の前の士郎より数歳年下なんだから、この外見を有効に使わなきゃな。
少なくとも、俺は彼らよりも年下だと認識された方が、様々な場合でプラスに働くだろう。
魔術師ならば、そんなに甘くはないのが常識だが……目の前のマスター二人には十二分に有効だ。
士郎はもちろんだが、遠坂もあれで『心の贅肉』等と言いながら、甘さを見せる傾向にあるし。

さて……それじゃあ、まだ名乗っていない相手に名前を聞きますかね。

幾ら俺自身は、遠坂の名前を知っていたとしても、この場では呼ぶ訳にはいかない。
何せ、彼女からすれば、俺は初対面になるのだからな。
故に、どうしてもこの場で名を聞き出す必要がある訳だ。
早い段階で聞き出しておかないと、それこそうっかりボロを出してしまう可能性もあるし。

まだ、アーチャーをこちら側に引き込んでいない状態では、それは致命傷になるだろう。

それが分かっているからこそ、今の段階で名前を聞き出そうとしているのだ。
と、言う訳で、だ。
早速、揺さぶりを掛けるとしようか。

「……ねぇ、お姉さん。
貴方は、俺に名前を教えてくれないの?
アーチャーの様に、一時的に名乗る名前がない、記憶を無くした名無しなの?
それとも、相手に名を名乗られたのに、名乗り返せないほどの礼儀知らず?
セイバーやアーチャーのような英霊達なら、確かに名を知られたら大変だけど……マスターはそれほど問題ないよね?
それとも、名前を知られる事すら恐れる、臆病者?」

可愛らしく首をかしげつつ、つらつらと皮肉を混ぜた言葉を連ねてやれば、遠坂の顔は怒りに彩られ始める。
中々に怖い顔だが、その程度で退くほど俺は柔じゃない。
もっと怖いものを、俺は嫌と言うほど知っているから、寧ろ平然とした様子でそれを受け流す。

俺が平然としているから、遠坂は根負けしたかの様に小さく溜め息を漏らし。
僅かに視線を和らげると、遠坂は嫌々と言った様子で口を開いた。

「……私の名前は、遠坂凛よ。
この冬木の街の『管理者』でもあるわ。
私、貴方みたいな魔術師がこの街に滞在しているなんて話、知らないんだけど?」

名を名乗りながら、遠坂は早速俺に対して探りを入れてくると言うのか、威圧をしてくるというのか。
気持ちは判らないけど、そんな風にしても俺は簡単に口は割らないよ?
この手のやり取りは、それこそ嫌と言うほどに場数を踏んでるからね。
どちらかと言うと、視線と言葉だけの威圧なんて、随分と可愛い方だな。
普段なら、威圧だけじゃなく実力行使も同時にしてくるのか当たり前だし。
多分、俺の今の外見が影響してるんだろうな。
第三者から見たら、虐待してる様にしか思えないからさ。

ホント、遠坂は詰めが甘いよなぁ……

敵になるかもしれない相手に、外見だけで躊躇するんだもん。
まぁ、俺の隠してる本当の実力が、遠坂には解り難いからだろうけどさ。
それでも、相手にこんなに付け入る隙を与えちゃ駄目じゃん。
俺なんて、どうやって遠坂をからかおうか考えてるのに、な?

もっとも、やり過ぎは色々な意味での死亡フラグになるから、匙加減が難しいけどさ。

もちろん、そんな事は口に出すのはもちろんオクビにも出さず、俺はスッと士郎の事を指差す。
そして、当たり前だと言わんばかりの顔で、あっさりと言い切った。

「そりゃ、そうだ。
だって、俺はとある魔術儀式の事故に巻き込まれて、その場から吹き飛ばされたみたいなんだよね。
で、次に気が付いたら、ここの土蔵の中の魔法陣の上に、セイバーと一緒に立ってたんだ。
その際、衝撃で気を失っていたから実際はどうなのか判らない。
これは俺の仮説だけど、事故で俺が吹き飛ばされた際に扱っていた儀式と、正式な手順を践まなかったこっちの召喚とが何らかの原因で混ざった可能性が高いかな。
もちろん、確証がある訳じゃないけど、ね。
だから俺は 、『管理者』に断りもなく立ち入った不法滞在者じゃないの。
不幸な、魔術事故の被災者なんだよ。」

簡単にではあるが、俺の状況をさらりと話してやれば、遠坂は思わず息を飲む。
まぁ、気持ちは分かるさ。
彼女にすれば、俺が遭った事故の内容次第によって、様々な問題が派生する訳だからな。
俺が落ちた事によって、この土地や『聖杯戦争』にどんな影響が出るかも判らないし。
衝撃を受けないでいる方が、逆に難しいんじゃないかな。
それに、だ。
俺が『アーチャーを知っている』と言う状況が、さらにややこやしい事態に発展しかねない事も理解しているだろう。

うん、遠坂が見せる混乱具合も含めて、そろそろ答えの一つを与えてもいい感じかな。

俺はそう判断すると、士郎に頼んで話し合いが出来るような広い部屋へ、全員を案内して貰う。
詳しい話は、ランサーをマスターから切り離さなきゃ無理だけど、俺とアーチャーの関係を簡単に話すことは可能だからな。
全員が座ったのを確認し、士郎を手伝ってお茶を配る。

やはり、長い話をするならお茶とお茶請けは必須だよな。

こんな状況でも、お茶を飲むとホッとするのはどうしてかな?
まぁ、周囲の気が立っているから、余計にそう感じるのかも。
そんな風に考えながら、ニコニコと笑みを浮かべて用意したお茶を一口飲んだ俺に向けて、遠坂が改めて質問を口にした。

「それで、どうしてあなたはアーチャーの真名や宝具、その上私とアーチャーしか知らない筈のことを知っているのかしら?」

真っ直ぐ、俺を見据えて問う遠坂。
まぁ、気持ちは分からなくもないけど、かなりストレートだな。
『仕方がない』といった様子で俺は軽く息を吐き、改めて口を開いた。

「俺とアーチャーの関係は、簡単に言うなら養い親と養い子だよ。
小さい頃に親を亡くした俺を、アーチャーが引き取って育ててくれたのさ。
俺の知識の半分以上は、アーチャーの養育によるものだし。
だから、俺はアーチャーの真名や宝具を知っているし、他にも色々と知っている事があるんだ。
まぁ、基本的に俺は必要以上に干渉とかするつもりは、今の段階では無いけどね。」

にっこりと笑う俺に、苦虫を潰したような顔をする遠坂。
ある程度予想はしていただろうが、それでもハッキリと言い切られたら、他に何も言えないからだろう。
ただ、俺の言葉に納得した感じなのが、士郎とセイバーだ。
もちろん、単純に俺の言葉に納得したとかじゃなく、アーチャーが持つ雰囲気と俺のそれが、似通っているのが理由なんだろう。

やはり、子供は育ての親に似ると思ったんだろうな。

この辺りに関しては、俺自身もそう考えるだろうと理解できていたから、別に気にしない。
むしろ、そう思ってくれるように誘導したと言っても良いだろう。

その方が、色々な意味で反応が楽しいし?

だが、この状況を受け入れられない者もいる訳で。
真っ先に、俺の言葉を否定してきたのは、アーチャーだった。

「……そんな話、本当とは思えんな。
確かに、私自身が英霊になる直前の記憶について様々な理由から曖昧な部分がある為、全くなかったと断言できる訳ではない。
……しかし、だ。
その漠然とした記憶の中ですら、私に到底子育てが可能な状況など到底存在したとは考えられないし、英霊になった後の召喚では絶対にあり得ないと言っていいだろう。
だから、そのヨタ話を続けるつもりなら、話の整合性を持たせた上でこの私を納得出来させてみるがいい。
ただし……その場合、その説明にどうしても私の中で納得がいかなかった場合、相応の報復を覚悟して貰おうか?」

半ば脅しに近い発言をしながら、俺を真っ直ぐに睨み付ける。
アーチャーにしたら、『聖杯戦争』に参加した己の『目的』を果たす為に、出来る限り不確定要素を排除したいと考えたからこそ、こんな対応を取ったんだろう。
俺と言う存在に掻き回され、積年の『目的』が果たせなかったら、悔やんでも悔やみきれないだろうし。

だが、俺はそんなものに圧されてしまう程、柔な性格には育っていないんだな、実は。
悲しいかな、環境がある意味では大変素晴らしい状況だったので、寧ろこの程度なら慣れたものだったりする。
だが、俺はワザと目を伏せて泣き真似をする事を選択した。

もちろん、目的はアーチャーを追い詰める為である。

「……酷いよ、アーチャー……あんなに俺のこと、目に入れても痛くない位に可愛がってくれてたのに……そんな風に言うなんて……
本当に、全部覚えてないのか?
俺の事を【誰よりも大切だ】って言ってくれてたのに。」

不自然にならないように気を配りながら、鼻をすすり涙に潤んだ声を上げる。
ついでに、己の涙腺を意識を傾け、コントロールする事によって涙を目の縁に涙を浮かばせた。
これで、周囲が疑い眼差しを向けたとしても、顔を上げれば泣き顔の出来上がりである。
実際はどうであれ、こちらは見た目は子供だからな。
こんな風に、悲し気に泣いている姿を見せると、言い様のない罪悪感に捕らわれてくれるだろう。
更に、だ。
第三者から見た場合、俺の発言内容と合わせて考えれば、アーチャーがどう思われるかなど想像に容易いだろう。

「……アーチャー…貴方、ショタだったのね。」

「……紛れもないショタだな、テメェ。」

「……ショタコンですね、間違いなく。」

「うーん……アンタはショタコンだったのか。」

遠坂は、明らかになった自分の英霊の性癖に嫌そうに眉をよせ、ランサーは状況的に違いないだろうと判断しながら、愉しげにからかい口調で告げ。
セイバーは、顔をしかめながら断言して退け、士郎は困惑した様に小さく呟く。
そんな四人の言葉に、俺は心の中でニヤリと笑った。

やはり、俺の思った通りだ。
第三者視点からだと、俺とアーチャーのやり取りは、ショタコンがそれを隠すべ白を切っているように見える訳だ。
こちらの思惑通りに進む状況に、慌てたのはアーチャーだろう。
何せ、このままではこの場にいる全員に、『ショタコン』として認識されてしまうのだ。
幾ら何でも、マスターである遠坂とセイバーにそんな風に思われるのは、絶対に避けたい筈である。
ランサーや士郎に関しても、可能な限りその誤解は避けておきたいだろう。

戦闘中の挑発に使われたりした場合、他の参加者に聞かれてしまう可能性がある訳で。
もし、そのまま関係者全員に広まってしまったら、多分アーチャーは戦意喪失なんてレベルで済まないだろう。
自分でも、それがハッキリと判っているからこそ、アーチャーはその誤解を解かねばならないと思う筈で。
それが分かっていながら、アーチャーに対して意地が悪い罠を仕掛けたと、出来れば思わないで欲しい。

俺の本音を言えば、まだまだ可愛い悪戯レベルなんだからな、これは。

俺がそんな風に考える事、僅かに三秒。
その間に、何とか自分を立て直したアーチャーは、真っ向から俺の言葉を否定した。

「……待ちたまえ。
幾ら何でも、正体不明の子供の言葉を真に受けすぎるのではないかね?
ランサーやセイバーはともかく、凛、君はちゃんと状況を理解しているのか?
その子供は、何時でも我々の敵に回る可能性を持った、限りなく黒に近い存在なのだぞ?
そんな相手の言葉を真に受け、この『聖杯戦争』のパートナーである私にその様な疑念を抱くのは、自ら敵の罠に掛かりに行くようなものだと思わないのかね。
大体、だ。
言葉だけならば、幾らでも偽証は可能だ。
万が一、本当に私が保護者としての立場にあったとしても、それが君たちの考えるような状況にあったとは考え難いのだがね。」

最初の動揺など、それこそ全く無かったかのように、的確な指摘をして行くアーチャー。
それを聞いて、遠坂はあっさりと俺の言葉に丸め込まれて同意し掛けた状態に気が付き、バツが悪そうな顔になる。
幾ら、アーチャーの記憶が曖昧だとしても、俺の言葉に素直に聞き入るべきではなかったと、遠坂は思っているだろう。
最初はあれだけ警戒していたのに、不測の発言に乗せられた挙げ句、不信感たっぷりの視線すらアーチャーに向けたのだ。
これが原因で、不協和音を発生させる可能性だってある以上、遠坂の対応は不味すぎたと言えるだろう。
むしろ、最初からそれが狙いの発言の可能性だってあるのだ。

と言うか、半分以上はアーチャーへの嫌がらせであり、その上で遠坂のアーチャーへの信頼を少しでも減らすかのもまた悪くない、と思わなかったと言えば嘘になる。

もちろん、あくまでも『そうなると良いな』程度の考えだったから、失敗しても問題はない。
なのに、遠坂ときたらあっさり乗ってくれたりするから、彼女の『うっかり』の度合いはやはり半端じゃないと思うのだ。
普通、幾ら視覚と言動による思考誘導をしたとはいえ、遠坂がここまでこちらの思惑にのるとは思わなかったのに。
そう……他の面々のうち、ランサーは悪ノリしてくれるだろうと予想が出来ていたし、セイバーと士郎は素直なので俺の言葉を額面通り受け止めると思っていた。
しかし、遠坂だけは引っ掛からない可能性の方が高いと俺は考えていたのである。

本当は、こんな遠坂のうっかりをもう少しだけ弄りたい気分だけど、今の状況的には難しそうだ。
アーチャーの言動で、遠坂はもちろんだけどセイバーやランサーたちも、俺の言葉に素直に乗る事への疑念が出来たみたいだからな。
もちろん、俺は間違いなく嘘はついていない。
とは言え、ワザと誤解し易いように全て事実ではあるが黙って居た部分もある。

さて……どうするかな。

疑念を浮かべながら、俺を見る面々に対して肩を竦めると、俺は涙を引っ込めてにっこりと笑って見せる。
その俺の態度に、『やはり嘘か』と誰もが考えを傾けたらしいのを感じながら、俺は口を開いた。

「先に言っておくけど、俺は嘘はついていないからな。
ただ、幾つか黙っていただけで。
アーチャーが、俺の養い親に近い存在になるのは、この『聖杯戦争』が終わった後の話だ。
だから、アーチャーが俺を覚えて無いのは当然だろうね。
それでも、俺からすればそっくりそのまま同じ存在だから、ついあんな風に言いたくなっただけ。
本当に、アーチャーは俺の事を大事にしてくれていたからさ。
だから、あんまり悔しくて訳が分からない今のアーチャーに八つ当たりした。
ゴメンな?」

そこで一旦言葉を切ると、俺はゆっくりと視線を巡らせる。
俺があまりに素直に謝罪の言葉を吐いたので、何か企んでいるかと警戒しているのが窺えて、思わず苦笑したくなった。
そこまで、なんで俺みたいなのを警戒するかね。

まぁ、それは今の段階では別に良いかな。

とにかく、俺としては早く話を進めたいし。
そう考えると、俺は再び口を開いた。

「そのお詫びに、さ……俺が知ってるアーチャーの真名とか、どうして俺をアーチャーが育てる事になったのかとかを、アーチャーだけになら簡単に話しても良い。
自分の真名とか分からないと、戦い難いだろうし。
ただし、今回の『聖杯戦争』の結果とかは省略するからな?
俺が知る結果は、あくまでも『平行世界』のものだから、下手に話してそれに足を掬われたら困るし。」

笑顔のままそう切り出せば、更に疑いの眼差しを深めるアーチャー。
当人は、遠坂に対して黙っているだけで、記憶も真名もきちんと思い出している。
俺の主張をそのまま信じるなら、それを承知でわざとそう言っている事になるのだ。
警戒するのは、ある意味当然だろう。
俺だって、同じ立場に立たされたなら、アーチャーと同じ反応をすると思うし。
それが判っていて、その上での言葉なのだと、俺が意思を示すように視線を向ければ、何か意味がある事を察してくれたらしい。
『仕方がない』といった素振りを見せながら、アーチャーは遠坂に声を掛けて。

「……確かに、それもまた一理あるな。
己の真名を思い出せないままでは、不完全な状態である事は否めない。
それこそ、今現在の目の前の相手に翻弄されている様に、何らかの形で足を掬われるやもしれん。
不本意ではあるが、この提案を飲む方が状況整理も早いだろう。」

心底、不本意だという顔をしていうアーチャーに、まさか同意すると思っていなかったらしい遠坂が、驚いたように後ろを振り返る。
彼女からすれば、アーチャーがこんなに簡単に同意するとは、思っていなかったのだろう。
まぁ、気持ちは分からなくはない。

誰だって、あれだけからかわれたら、素直にその相手の言葉に耳を傾けるとは思わないからだ。

これは、俺だけがそう思った訳では無いらしい。
ランサーやセイバーも、同じようにアーチャーに向ける視線の中に、驚きの色が混じっているからな。
しかし、当事者であるアーチャーは周囲の視線を気にする事なく、俺を見据えながら遠坂の疑問への答えを返す。

「……そいつが、信用ならないのは俺が一番理解している。
だが、持っている情報がそれなりに有益である可能性も否めない以上、引き出せるだけ情報を引き出した上で、その真偽をこちらで判断すべきだと考えたに過ぎん。
もし、本当にソイツの言う通りなら、わざわざ私を指名して何かを伝えようとする行動に、相応の意味があるだろうし、な。
ならば、早々に話を聞いておいた方が、判断を下すのも早く済む。
そう考えたからの返答だっただが……どこか不味かったかね?」

言外に『判ってくれると思っていたのだが』と呆れを滲ませるアーチャーに、俺は苦笑したくなるのを表に出さないよう、必死に抑える。
実に、アーチャーらしい物言いだが、向けられた側はたまったものじゃないんだよな。
あの調子の物言いで、何度慎二や一成をやり込めた事か。
慎二なんか、なまじプライドが高いのが災いして、それこそ泣きが入るまで凹まされてたし。

状況にもよるけど、アーチャーは基本的にからかえる時は限界を見極めた上で、最大限まで相手をからかうから、後の被害が甚大になるんだよな。

頭の端でそんな事を考えながら、目の前で繰り広げられている遠坂とアーチャーのやり取りを聞き流す。
全部聞いているのも楽しいだろうが、今の俺にはアーチャーにどこまで話すべきか、きちんと考えておく必要があるのだ。
それこそ、その場の流れ次第なんて考え方をしていたら、必要ない内容まで全部話してしまいかねない程、油断ならない相手なのだ、アーチャーは。
今まで、何度もアーチャーには内緒にしようとした事を、その巧みな話術と観察眼によって引き出されてしまった経験があるからこそ、きちんと論理立てた話をしなきゃ納得してくれないだろうと予想が付く。

出来れば、知らなくても良い事は話すつもりはないんだよな、俺は。

そんな思いなど全く表に出す事なく、俺はアーチャーを促すべく言葉を選ぶ。
下手な物言いは、アーチャーのマスターである遠坂を刺激するし、セイバーやランサーの警戒を呼び兼ねないのだ。
故に、不要な事は一切言わない。

「それじゃ、一先ず向こうで話そうか。
この家の間取りなら、向こう側に道場か何かがあるんだろう?
悪いけど、そこまで着いてきて欲しい。
マスターが見えなくなると、警護の意味で心配だろうけど、この場にいる面々は一時休戦してくれるよな?
もしそれが出来ないと言うなら、俺も相応の対応をしてから行く必要があるんだけど……どうする?」

テキパキとした俺の言葉に、ランサーは「仕方がねぇ」と小さく呟き、セイバーは士郎の視線を受けてから小さく頷く。
二人とも、ある程度俺の言葉に素直に同意したのは、俺の手札が見えないからだろう。
この状況では、不用意な対応はそのまま死に繋がる事を、歴戦の戦士である彼らは良く分かっているのだ。
まぁ……ランサーの場合、俺との間に交わした『食事の誘い』の誓約も絡んでいる可能性は、過分にあるのだが。

やっぱり、色々な意味で苦労してるよな、ランサーって。

頭の端でそんな事を考えながら、俺はアーチャーを伴い道場へと向かった。


be continues……?

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