☆★☆ すえの女中奉公日記 ? ☆★☆ 第一話 

 


俺様の名前は、猿飛佐助。
かの高名な忍び、戸隠白雲斉の下で修業をしている弟子の中でも優秀と言われていて、その将来を期待されてたりするんだよな。
尤も……今の俺は、長年に渡る修業を無事に終えている身で、正式に仕える先が決まるまで僅かに出来た猶予を、師匠の許可を得た上で個人的な理由で使っている。
普通なら、正式な主が決まるまでは修業を続けるんだけど……今回は特別。

何故なら、今の俺様には一つだけ気掛かりな事がある為に、決まった主を持たせるには問題があると、師匠に指摘されたからだ。

忍びならば、己を道具と割り切って主に使えるのが当たり前なんだけど、それが今の俺様には難しいのだと言うのが、修業を終えるまでの俺様を知る師匠の見立てだったりする。
故に、その要因を取り除いてしまわない限り、俺様は修業を終えても一人前と見做されない訳で。
そんな状況が続けば、里だって黙っている訳がないのは言うまでも無くて。

このままでは、俺様はせっかく苦労して身に付けた忍びの技も生かせず、それどころか役立たずの烙印を押されてしまいかねない状況なのだ。

もしそんな事になれば、待っているのは最悪な未来ばかりで。
そんな最悪な未来しかないなら、それこそ俺様は一か八かの可能性に賭けて里抜けを実行しかねなかった。
師匠としても、今まで手塩に掛けた弟子が、怪我などの理由もないのに忍びとして世に出ることもなく、そんな形で終わるのは惜しかったのだと思う。

だからこそ、俺様は師匠から三十日の猶予が与えられたという訳である。

その旨を言い渡された際、俺には実は心当たりがあった。
確証があった訳じゃないけれど、それでも俺様にはそれが原因だろうと思い当たったのである。
故に、普段なら反論するだろう師匠の言葉に、何も言い返せなかった。

そう……俺様には、師匠の指摘に心当たりがあったりするのだ。
今の俺様には、忍びとして主に仕えるには問題があるのだろう気掛かりがある。
これは、誰も……師匠すら知らない事。

それを示す手掛かりは、俺様の手元にある唯一の私物と言うべき御守りだった。

普通、忍びは私物は殆ど持たないんだよね。
忍びの忍具以外の数少ない私物は、大概身の回りのちょっとした小物ばかりで、全て生活必需品だからだ。
故に、御守りのような物を持っている事はないんだ。
少なくとも、見習いの忍びに日用品以外の私物は、存在しないと言ってよかった。

だからこそ、こうして俺様が持っているのは本来おかしいのだけど……
このあたりについては、他人に絶対言えない明確な事情が絡み合った結果、人知れず所持が可能になってるんだよね。

そう……俺様には、人には言えない秘密が幾つかあったりするのだ。

それらが幾つも重なり合って、この御守りは俺様の手元にある。
しかも、この御守りなんだけど、なんの由来があって俺様の元にあるのか、いまいち解っていないんだよね。
と、言うよりも、俺様自身の過去に関わる可能性があるんじゃないかと、漠然とだけど考えていたりする。
なんで、そんな風に考えているかといえば、それなりに理由があった。

だって……この御守り、どうみてもどこかそれなりのお家の家紋が、はっきりと刺繍されてるんだもん!

そんなものを、わざわざ御守り袋に入れるなんて、普通に考えたら何らかの縁があるからだよね?
もし、この御守りの本当の持ち主が俺様だったのなら、俺様自身が。
本当の持ち主が俺様じゃなかった場合は、本当の持ち主がこの家紋を持つ御家に縁があるのか、もしくは当人の家紋か。
どっちにしても、相応の物なんだと思う訳で。
なんで、俺様自身の物だと断言出来ないかと言えば、ちゃんと理由がある。

だって俺様、里に来る前の記憶が全く無いんだもん!

や、別に、俺様がこの里に来たのが覚えて居ないくらい小さかった訳じゃないよ?
俺様に記憶が無いのは、全く別の理由だったりする。
そもそも、俺様がこの里の忍びになる切欠を簡単に言うと、俺様は崖の下で怪我をしている所を、通り掛かったこの里の忍びに拾われたからなんだよね。
俺様を拾ってきた忍びが言うには、
【身体中に怪我をして意識が殆ど無い状態なのに、闇の婆裟羅を発動させて威嚇しる様を見て、忍びにこれ以上無いほど向いていると思った】
との事で。

そんな俺を、何とか手当てを施して里まで連れ帰るまで、かなり苦労をしたと言われたのは、ある程度俺様が大きくなってからだけど。
んで、だ。
意識が戻った俺様は、全く何も覚えていない事が判明すると、そのまま忍びとして育てられる事になって……今に至るんだよね。
だから、俺様の無くした記憶の先に、どんな縁があるかなんて全く判らない訳で。
なんで俺様が持っている御守りの事が、忍びの里の人たちや師匠にバレなかったかと言うと、それにはちゃんと訳がある。

ちょっと特殊な方法で、誰にも見付からないように持っていたからなんだ。

それについての詳しい説明は、正直言ってかなり難しい。
まだ、俺様自身もきちんと理解していないから、他人に説明なんてまともにできる筈がないんだよね。
俺様自身、御守りを持っている事に気が付いたのは、ある一件が判明してからだったし。

そんな訳で、俺様は気になって仕方がないこの御守りの事を調べる事にした訳なんだけど……

俺様が色々と調べて判ったのは、この家紋が奥州にある神官の家である【片倉】の物だと言うことだった。
ここまでは、簡単に調べる事が可能だったけれど、問題はここからだと思う。
俺様の調べでは、かの家で行方不明になっている子供は、この十数年は居ないからだ。
つまり、俺様が片倉の家に連なる子供と言う可能性は、消えたと言っていいと思う。

だとすれば、この御守りを俺様が持っている理由は、別の事という話になる訳で。

それを調べるには、やはり直接あちらまで出向くしかないだろう。
家紋だって、本当なら調べ上げるまでもっと時間が掛かる筈だったんだ。
偶々、里の忍びの先輩が知っていたので、直ぐに判っただけに過ぎないし。


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