☆★☆ 思わぬ形の再会 〜佐助サイド〜 ☆★☆

俺様の名前は、渋瀬戸桜。
そのあたりに幾らでも居る、ごく普通の女子高生だ。
いや、微妙に普通とは違うかも。
何せ、女子高生なのに一人称が俺様だし、常識外れの身体能力の持ち主だし。
極めつけが、前世の記憶が丸々あるときている。

しかも、その前世というのが戦国時代に生きた戦忍で、この時代では架空の存在ではないかといわれる【猿飛佐助】だっていうんだから、ある意味笑うしかないよね。

う〜ん。
こうやって改めて考えれば、俺様はやっぱり普通じゃないよな、うん。
自分が他の人に比べて、どこか違っている事に早い段階で気付いていた俺様は、その部分を可能な限りひた隠しにした。
今の時代、突出し過ぎた能力の持ち主は、社会から弾き出されるからだ。

今でも、その判断は間違いじゃなかったと思っている。

現に、つい数時間前までは、ごくありふれた平穏無事な生活が出来ていたし。
そう、数時間前まではって言うのは、ちゃんと理由がある。

俺様、現在進行形で貞操の危機に陥っているからだ。

信じられない事に、俺様が現在押し込められている場所は、どう考えても風俗関係の中でも入浴関連サービスが伴う最悪な場所の個室だ。
視界の端には、ガラス張りの浴室がでかでかとその存在を主張しているし。
先に断っておくけど、俺様自身がその筋の人間相手に何かした訳でも、多額の借金を作った訳でもない。

それをやらかしたのは、俺様の遺伝子提供者だ。

こんな言い方をすると、まるで【冷たい】と言われそうだが、俺様したら到底父親と呼びたくない。
そもそも、そいつは母と結婚していた訳じゃないしね。
そいつと母の付き合いは、所謂【愛人関係】だったと言えば分かって貰えるだろうか?
母の仕事は、確かに【水商売】だったが、その道に誇りを持ったプロだった。
そんな母を気に入り、当日羽振りのいい会社の社長だったそいつは、あの手この手を使って半ば強引に愛人にしたらしい。

その時に生まれたのが、俺様だ。

元々子供好きだった母は、俺様が生まれた事でそいつに絆されて、それなりに仲良くやれる筈だったんだ、そいつの懐具合がそのままなら。
俺様が生まれたのが、丁度日本のバブル経済が弾ける直前だったせいで、生まれて数年でそいつの懐具合も急降下。
母を強引に愛人にした時に、約束していた月々の手当て所か、会社の経営がかなり厳しくなったそいつは、苛立ちを解消する為に幼い俺様を虐待しやがったらしい。
勿論、母に隠れて、だ。

そうすれば、母にバレないとでも思ったんだろうか?

冷静に考えれば、バレない筈がないのにさ。
とにかく、俺様がすぐに笑わなくなった事と身体の見付け難い場所にあった痣で、そいつによる俺様への虐待に気付いた母は、速攻でそいつと縁を切り、二度と遭わなくてもいいように違う街へと引っ越した。
元々、母はそいつが好きだった訳じゃないから、【決断したら即行動だった】と笑って話してくれたっけ。
そんな訳で、本来なら俺様とは縁が切れた筈の、そいつの借金の為になんで俺様がこんな場所に売り飛ばされたかと言うと、単純に言えばそいつに騙されたからだ。

うん。
前世の俺様を知っている面々なら、【信じられない】と思うかも知れないけど、やっぱり俺様もこの平和な時代で平凡な生活に浸かっていたせいで、昔のような【忍】としての冷徹な思考がどこか鈍っていたらしい。

長年会うこともなかったそいつが、突然俺様の前に姿を現し、今は亡き母の遺影が飾られた位牌に焼香したいと言われた時、俺様はそれを切って捨てられ無かった。
そいつなりに、母のことを愛していたのだと、母の事を語る言葉や態度から滲み出ていて、容易に察せられたからだ。
そんな姿を見せられては、つい俺様は絆されてしまったのである。

確かに、そいつは母を愛していただろうが、俺様に対しては違っていた事を忘れて。

何せ、母の遺影に焼香をした後、【一緒に暮らしたくて、長い間捜していたのだ】と土下座して俺様に謝ってきたから。
もちろん、俺様の意志を尊重するし、一緒に暮らすのが嫌なら、せめて一度だけ父親として俺様とホテルのレストランで食事をしたいのだと、涙ながらに訴えられては、流石に断り難かったのも事実だけど。
俺様が承諾するなり、善は急げとばかりにホテルのレストランを予約し、【いい年頃の女性だから】と、高級レストランでも問題ない服を買うべく行き慣れないブティックに連行して。
勝手の判らない俺様の意志など無視して、店員に指示して俺様を見られる格好に仕上げたそいつは、そのままレストランへと連行しやがった。

まぁ、この手の事は不慣れだったのも事実だし、結果的にそいつに任せる羽目になるだろうから、同じだったのだろうが。

レストランでの事は、結果だけみれば料理は極上で文句なしだった。
ただ、俺様とそいつは欠片も似てないから、料理を運んでくるウェイトレス達の視線がどこか探るようで、かなり不躾だったけど。
もっとも、一般人なら気付かないレベルだったから、口に出して文句を言ったりしなかったけどさ。
と言うか、もしかしたら彼女達も、あの腐れ外道なそいつの共犯者だったのかも。

何も判っていないまま、有りもしない親の愛情を信じて釣られた、馬鹿な娘。

そんな嘲笑を内心浮かべながら、その段階では道化でしかない俺様を見ていたのだとしたら、確かにあんな視線を向けてきても仕方がないよな。
俺様だって、第三者の立場でそれを見ていたら、同じような反応をしていたと思う。
現に、俺様はそいつらの思惑通り見事に嵌められて、現状にある訳だし。

そう、俺様は連れてこられたレストランで見事に一服盛られたのだ。

盛られた薬は、かなり強力な睡眠薬だったと思う。
俺様、小さな頃から訓練とかしなくてもその手の類は効き難くかったんだよね。
お陰で、軽めの睡眠薬じゃ殆ど効かなくて、軽く睡眠薬入りの風邪薬では寝入った事がなかったのに、そんな俺様があっさり眠らされた挙げ句、服を引っ剥がされても目を醒まさず、強引に起こされるまで意識が戻らなかったんだ。

一体、どれだけ強力な睡眠薬を盛ったのか、確認したい位だね。

この手の類の薬は、余り強いものの場合、使用後に体調に異変をきたしたり、使用した量によっては命の危険もあるのだ。
でなければ、睡眠薬を多量に摂取しての自殺など発生しないだろうし。
あいつは、俺様がどうなっても構わないと思っていたからこそ、平気で強い薬を使ってきたんだと思う。

死にさえしなければ、俺様の身体は利用価値はあるからな。

むしろ、ある程度自我が残っているだけになっている位の方が、下手な抵抗をされなくて良いと思っていたのかも。
実際、完全に意識が戻るまで俺様は無抵抗だったから、俺様が着ていた服を全て剥いだ挙げ句、全身に何かを塗り付けられたり、女の子の大事な場所を散々指で弄られたり、好き放題されたみたいだし。
流石に、処女までは奪われていなかったけど、多分処女か経験済みかを調べたんだろうな。
良く判らないけど、処女の方が商品価値が上がる可能性もあるし。

何せ、俺様は現役女子高生だから。

処女を奪われていないと判ったのは、身体の自由を取り戻すと同時に、真っ先に自分で確認したからだ。
監視されているかもしれない場所で、そんな所を自分で弄るのは恥ずかしがったが、そんな事を言っている場合じゃなかったし。
ついでに全身のチェックをした結果、胸全体が微妙に痛かった。
特に、胸の谷間の辺りの肌が何かで擦られたようにヒリヒリしていたから、最悪意識のない俺様の胸を使って、誰かがパイズリでもしたのかもしれない。

なんせ、俺様腰は折れそうな位に細いけど、胸はDカップあるし。

もし、この予想が当たっていたら、最悪かも。
俺様の初めては、全部小十郎さんにあげたくて、今までキスすらしたことがない綺麗な身体でいたのに、一気に汚された気分だ。

まぁ……違っていたとしても、全身何かを塗りたくられて、中まで指を入れられて弄られていたら、汚されたと同じだろうけど。


薬のせいで意識が無かったのは、良かったのか悪かったのか、いまいち判らない。
ただ一つだけ言えるのは、意識が戻る前に犯されなくて良かったという事位か。

己の意識が戻った時に、見知らぬ誰かに犯されている真っ最中だったら、こんな風に冷静さを保って居られるか、正直言って自信は無かったから。

もっとも、現在進行形で貞操の危機には変わらないから、微妙に冷静さが保てている訳じゃないかもと、そんな言葉が頭の端を掠めるが。
そんな風に、自分の考えを巡らしていた俺様だったけど、背後の壁に据え付けられていた受話器が鳴った事で、一端それを止めた。
俺様が、自分の置かれた状況を知ったのは、目を覚ました直後にこの部屋の唯一の出入り口に貼られた、借金などの事情を端的に書かれた一枚の紙を見付けたからだ。
そこには、最後にこう書かれていた。

【最初の客が来たら、壁の受話器で教える】と。

いよいよ、もう後がないのだと知らせる合図に、俺様は思わず顔を引き吊らしてしまうが、唯一の直接交渉の機会だと思い直す。
少なくても、これを無視するという選択肢は存在しない。
例え、今、鳴っている受話器を無視したとしても、俺様が置かれている状況は何も変わらず、むしろ新たに得られるかも知れない選択肢を、減らす可能性が高いからだ。

少しでも可能性があるなら、僅かなチャンスにでも食らいついてやろうじゃないか。

【絶対に最後まで諦めない】と、胸の中で固く誓いながら、俺様は受話器を手に取った。
すると、受話器の向こうから聞こえてきたのは、予想よりも若い男の低い声。

『お嬢さん、きっちりお目覚めで何よりだ。
ドアの貼り紙はちゃんと見たな?
なら、判るだろうがお嬢さんにお客さんがついた。
うちの店は、基本はお客さんの入浴の手伝いとして入店料を取るが、それ以外は客と女の子との交渉で決まるんでな。
精々、今からそっちに行くお客さんと、その辺りをどうするのか、きちんと話し合って決めてくれや。
お嬢さんの最初のお客さんは、今後のお嬢さんの行く末を左右すり大事な存在だからな。
きっちり考えて、お嬢さんの希望に添うように交渉して、上手く好条件を引き出すことを進めておくぜ?
お客さんとの交渉で、お嬢さんが引き出したモンがお嬢さんの取り分だ。
そこから、抱えた借金の返済に当ててもらうから、そのつもりでいてくれな、お嬢さん。
それじゃ、後はお客さんと話し合ってくれや。』

こちらに話す間を与えず、一方的な通達だけで会話を切られてしまった。
それを腹立たしく思いつつも、聞かされた話には色々と考えるべき事が混ざっていた事に気付く。
客へのサービスへは、交渉結果だというのだ。
上手く立ち回れば、処女は守れるかも知れない。

一番良いのは、一度ここから外に出られれる事だけど、かなり難しいだろうからな。

ならば、今からやって来る最初の客を見定めて、最低限のコトだけで済ませらるように、上手く話を持っていかないとな。
あの男が幾らの借金をこさえたのか、俺様は今までに一切聞いてないけど……俺様としては、身体を売って返済などしたくないし。

と言うか、俺様は関係無くないか?

今更だけど、俺様は母があの男と別れて以来、養育費を貰ってない筈だし。
これに関しては、母の遺産を管理してくれている後見人が、引き継いだ通帳の入出金を確認して、その事実を把握してかなり腹を立てていたので、間違いないと思う。
つまり、果たすべき義務を果たしていないくせに、都合良く人を借金返済の為に売り払いやがったんだよな、あの野郎は。

あれ……これって、十二分に訴えられるんじゃないのかな?

そもそも、俺様はまだ十八にも成っていない未成年だし、そっちだって問題になる筈だ。
うん、大丈夫。
きちんとその辺りを話せば、お客さんとやらも無理な要求をしてこない筈。
誰だって、犯罪者にはなりたくないだろうし。

そんな風に、俺様が頭の中で考えを纏めた所で、ドアをノックする音が聞こえた。
どうやら、お客さんが到着したらしい。
それを知らせるノック音に、俺様は少しだけ緊張の糸を張る。

へぇ……いきなり入って来ずに、わざわざノックをするなんて、礼儀正しい真似するんだ?

てっきり、有無を言わせずに部屋に入ってきて、要求を突き付けて来るかと思った分、少しだけ意外だと思いつつもドアを睨み付ける。
一応、最初にどんなサービスを受けるか交渉して、そこから入浴などの手伝いが始まるらしいんだけど……お客さんによっては、いきなり襲い掛かってくる可能性が全くない訳じゃないし。
身の安全を確保するまで、警戒は解かない方が良いだろう。

睨み付けるようにドアを見ていた俺様は、開いた先からゆっくりと現れた姿に、思わず呆然として声を失った。

だって、仕方がないじゃん。
そこらの男よりも高い背も、後ろに撫でつけられた黒髪も、端正な顔立ちに一筋入った頬の傷も、どれも俺様が一番会いたかった、小十郎さんそのものだったんだもん。
いや、この人は小十郎さんで間違いない。
だって、俺様の顔を見た瞬間、俺様と同じように信じらんないといった顔で固まってるし。

この場合、俺様はどうしたら良いのかな?

このまま、お客さんとして迎えるべきなのか。
それとも、こんな所に来ている事を詰るべきなのか。
はたまた、事情を話して助けて貰うべきなのか。

余りに予想外の状況に、軽いパニック状態に陥りながら、俺様は答えが見つからずに立ち尽くしたのだった。

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