その姿は、まるで戦場を駆ける黒と橙の風 艶やかで人目を引く橙の髪は、それこそ戦場では格好の的になってもおかしくないのに 誰にも捉えられる事無く、鮮やかな手際で敵を屠る その様は、戦場に咲き乱れる艶やかな華の様で どうしても、目を離す事が出来なかった……
*** 戦場に艶やかに咲き乱れる華の如く ***
俺が、初めてその存在を認識したのは、戦場だった。
それぞれの戦力を知る為に、武田と上杉の戦を高台で高みの見物していた際に、一際目を引いたそれ。 初めは、それが忍びだとは判らなかったのだ。 冷静に考えれば、戦い方が武士のそれとは違っていたのにも関わらず、だ。 多分、戦場の醸し出す独特の空気に、知らずに当てられて居たのだろう。
それ以上に、あれ程派手に戦場を駆ける存在が、忍びだとは思わなかったから。
まるで、戦場を舞うように鮮やかに走り抜け、立ち塞がる敵を屠るその姿は、とても忍びとは思えなかった。 それだけではない。 主と思しき紅の武者の背中を守り、時に露払いを受け持ちながらその武者と共に戦場を駆ける様は、どこか己と似ている部分を感じて。 多分、己と同じ立場に立つだろう相手を、気にならない筈がなかった。
だから、それが忍びだと知ったのは、戦が終わった後で。
その事実を知っても、俺はその忍びに対して嫌悪感を不思議と感じなかった。 むしろ、忍びでありながら隠れる闇に事無く、人前に姿を晒して戦場を駆ける姿に、好感を抱いてすらいて。 あれ程嫌いな忍びなのに、なぜそんな風に好感を抱いたのか、その時は判らなかった。
ただ、余りに鮮やかに目の前で駆け抜けていく姿に、どうしても目が奪われていたのだ。 あの場にいられない事が、それこそおしいと思えるほどに。
この時の感情が、一体どういう代物なのか、俺は理解していなかった。 目で追う事しか出来ない自分が、どれほどもどかしさを感じていたかなど。 それが理解出来たら……
あれ程までに、艶やかに舞う戦場の華 其れを遠目で見る事しか出来ない事が、酷く口惜しかったから あの、鮮やかで艶やかな存在が居る場に、自分が居られない事が口惜しかった 己をとらえて離さない相手に、存在を知られない事が口惜しいと思った
なぜ……そう感じてしまったのか己の気持ちの気が付かずに……
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